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山口豊
1949年生まれ、東京都出身。二代目社長の父が仏壇仏具、荘厳仏具に寺院建築を取り入れる。大学卒業後、繊維の卸会社を経て同社へ。2012年、翠雲堂五代目社長に就任。日本の伝統文化や職人の技を後世に正しく伝えるため、本物の荘厳仏具づくり、社寺建築にこだわることで唯一無二のスタイルを築く。
https://suiundo.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2020年7月 取材時点のものです。

INTERVIEW

いつでも、良いものだけを作っていくという気持ちで仕事に取り組んでいます。そのためには、オンリーワンでありナンバーワンでなければいけません。二番手、三番手で妥協していては、良い仕事は残せません。途中で投げ出さず、まっとうするまでやり尽くすことが大切だと思います。本当に良いものというのは、何百年経っても変わらず使われ続けるものではないでしょうか。翠雲堂の建築や仏具は、どれもそのつもりで手掛けています。できることならば300年後の世界に生まれ変わって、私たちが建てた寺院が歴史的建造物として存在しているのを確かめてみたいですね。

雑務も全力で取り組み、ナンバーワンを目指した

山口豊

祖父が翠雲堂の創業者で、私が生まれてからは父が二代目社長をしていました。子供の頃は家にある仏壇の隙間でかくれんぼをしてよく叱られたものです。家業をそばで見て育ちましたが、さして興味は持ちませんでした。学生の時に欧州を旅行したことは、私の価値観に大きなインパクトを与えました。ルネサンス時代の芸術の素晴らしさに感動したのと同時に、日本の伝統文化や仏教美術の奥深さに改めて気がついたのです。

大学生活が終わる頃、翠雲堂を手伝ってくれないかと父から打診されました。それまで家業にかかわることを意識したことがなかったので、父に言われなければ他の仕事をしていたかもしれません。家業に入る前に、違う業界も一度見てみたかったので名古屋にある繊維の卸会社に就職しました。配属されたのは配送センター。荷物を何千個も担いで一日中駆け回りました。一日中パソコンの前に座るのと違ってとにかく体を動かしてきたので、仕事は汗をかいて覚えるものだという感覚が今でもあります。数年後に翠雲堂の支店ができたのを期に実家に戻ることになりましたが、常にナンバーワンになるつもりで働き、雑用でも何でも全力で取り組んできたので、退職することに悔いはありませんでしたね。会社からは惜しまれずいぶん引き止めていただきました。

実家での仕事は、荷分けや荷造り、配達から始まりました。今ほど高速道路が整備されていなかったので、配達は早朝から深夜に及ぶ一日仕事でした。藁を運ぶのに手が乾燥して辛かったのを今でもよく覚えています。納品先の本堂の屋根裏に登って吊金具を取り付ける時に天井板を踏み外したこともあります。大変なこともたくさんありましたが、現場を知らないといずれ上に立つことはできないと思い、どんな仕事も必死で覚えました。周囲は私のことを、跡継ぎなのだから普通の人の何倍も働くのが当然だと思っていたはずです。私にとってそれはプレッシャーではなく、むしろ少しでも早くたくさんの仕事を覚えようとするモチベーションになっていた気がします。

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設計から施工まですべて自社で完結

2012年五代目社長に就任したのは、63歳の時です。従来と同じことをしていても会社の成長はありません。事業の三本柱である荘厳仏具、寺院建築、仏壇・仏具すべての分野でレベルを上げるためにも、内容の濃い会社を構築していこうと決意しました。まず着手したのは、弱い部門を補強するための人員体制の強化です。大量に人を雇うのではなく、少数精鋭で優秀な人材を育てようと考えました。建築部門には現場を指揮できる人材や一級建築士を配置したほか、ヒバ材が採れる青森市内に3000坪の工場を新設し、建築に必要な大量の木材を確保し、年単位で乾燥させ保管するスペースができました。ビル6階相当の高さに匹敵する18メートルの長さの柱を製材できる工場は他にないと思います。人材と設備を強化したことで、建築の設計施工から荘厳仏具一式まで一貫して自社で完結する基盤を整えることができました。

5年の工期を経て今年(2020年2月)完成した筑波山大御堂の本堂・客殿は、建築の設計施工から仏具、飾金物の細部に至るまで、一貫して自社で請負いました。一流の技術を持つ宮大工や職人、経験豊富な現場監督、役所との折衝役など、多種多様な人材をすべて自前でそろえられたという意味で、この仕事は翠雲堂の集大成と言えるでしょう。完成した時は本当に感無量でした。屋根の軒の反り、欅材を使用した枡組など、どこ一つとっても、妥協した箇所はありません。いずれ、国の文化財に指定されるレベルのものができたと確信しています。

社員たちは皆、良いものを後世に残したいという共通の思いを持っています。これからも日本の優れた文化を継承して歴史を創り続けていきたいですね。
私はいつも自分の中に生きがいを持って仕事に取り組んでいます。いろんなことがありますが、自信を持って前に進むことが大切です。若者の皆さんも、自分が常にオンリーワン、ナンバーワンでいられるような目標を持って、将来に向けて頑張ってください。

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