profile
矢作桂子
東京都生まれ。18歳より渡米。ボストン大学経済学専攻。卒業後、日系銀行ニューヨーク支店に就職。3年間勤務後、帰国し東京の米系証券会社外債リサーチ部に就職、その後、実父の経営する基礎土木会社に10年勤務。結婚を機に退職。次男がダウン症を持って生まれてきたことから障害児への療育を極めるため2015年にバンブーワァオを設立。現在児童発達支援、放課後等デイサービスを5校運営、今後グループホームや就労支援の運営も計画中。
https://bamboo-wow.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年9月 取材時点のものです。

INTERVIEW

これまで障害者の方々は「自分は社会から切り離された存在だ」と感じていて、孤独感や不安があったと思います。でも、自分のできないところを知り、世の中の仕組みやルールを理解し、適切に人と関わることができれば、その生き方は180度変わるでしょう。誰でも苦手なことがありますが、それを克服できるとちょっとだけ自分を好きになれませんか。人は「生きやすい」と思えたとき、より社会が好きになります。そうして社会と関われば、社会から受けるメッセージにも肯定的になり、自分のイメージがまた上がっていきます。我々はそれを目指すために、障害者の方々が苦手を克服するサポートをしたいのです。

「より良い子育て」に伴走

矢作桂子

我々は、児童発達支援と、放課後等デイサービスの事業をしています。対象は0歳から18歳までのお子さんで、障害のあるお子さんのより良い発達を目指して、体面、知育面、心理面を包括的にサポートしています。我々が行っていることは一般に「療育」といわれるものですが、療育の定義はとても難しいものです。そこで私は、療育を「より良い子育て」と定義し、自己肯定感の強い子ども、自分のことが好きだと思える子どもを育てようとしています。

我々のサービスの特徴は、ダウン症に特化していることです。その背景には、私の次男がダウン症を持って生まれたことがあります。息子に療育を受けさせる中で、様々な障害を持つお子さんと出会い、障害には色んなタイプとそれぞれのグラデーションがあることを知りました。個々のより良い成長を目指すには、それぞれの特性を専門的に分析し、適切に介入することが必要だと感じたので、ダウン症に特化し、とことん専門的に関わっていくことにしました。ダウン症にはそれぞれ個性がある一方、共通する悩みや苦手なことがあります。特に多いのは、聴覚問題からくるコミュニケーション能力の低さ、筋力の弱さからくる体発達問題、脳神経の発達遅延に伴う知的障害です。そこで、理学療法士や作業療法士の協力を得ながら、それらを包括的に克服するための専門的なプログラムを構築し、適切な介入を行っています。

私は障害児を産むまで、ほとんど障害者と関わることが無い人生でした。米国の大学を卒業後、ニューヨークの日系銀行に勤め、1993年のテロを機に日本に帰国しました。証券会社に勤めたのちに父が経営する会社に入り、営業のために海外を転々とする生活をしていました。次男がダウン症と合併症を持って生まれたのは、44歳になる直前でした。感染症で高熱を出してICUに入った彼を見て、「この子は長生きしないかもしれないから、その分私が彼の幸福を最大限に追求しよう」と強く思ったのです。その体験が、この会社をつくるきっかけになりました。

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決して諦めない

起業を決めてからは、米国の療育施設を視察して回り、何が必要なのか、彼らが何をしているのかを聞き込みました。当時の日本には、ダウン症の苦手や不得意の原因、その解決策を具体的に返答できる人は少なく、プログラム化されている療育もなかったからです。米国では、何を質問しても彼らなりの答えを教えてくれました。一番驚いたのは、日本では施設で生活しているような17歳のダウン症の方が、iPadでコミュニケーションを取っていたことです。本人が喋れなくても、文字を入力したらiPadが喋ってくれる。そんな道具とスキルを活用するノウハウが既に米国にはあることに驚き、そのプログラムを日本に導入しようと試みました。今考えると、ずいぶん無謀だったと思います。

我々は、保護者のサポートにも注力しています。我々は教える立場の人間ではなく、保護者と同じ目線で同じ方向に走っていく伴走者に過ぎません。保護者こそが最良の理解者であり、教育者だからです。我々では、障害に対する知識はもちろん、自宅でのお子さんとの向き合い方、私たちがやっている手法の詳細など、私がこれまで得てきた知識をすべて開示しています。今後は、我々の独自のプログラム「ちのとれ」を全国に広げていきたいと思っています。これは発達の遅れがあるお子さんの認知機能の発達を促し、空間認知能力を徹底的に鍛えるものです。発達の遅れがあると物を正確に捉えられないのですが、空間認知機能が発達すれば、情報を正確に分析・分類、貯蔵、汎化できるようになり、必要な時にその情報を使えるようになります。すでに多くのお子さんに効果が出ていて、家の構造が分かるようになったり、自分でドアを開けられるようになったり、大人の指示が聞こえるようになったり、文字が読めるようになったりしています。お子さんはものすごく変化するので、決して諦めないでほしいです。

私の道しるべは、「人を信じる」です。療育の分野に入ってから今日まで、限界と言われていることを子どもたちが次々に突破していく姿を目の当たりにしています。「できない」と思い込むことはいけないと痛感させられていますし、人の可能性を信じることがどれだけ大事かを教えてもらっています。私はまだ経営者として未熟ですが、これからはスタッフの可能性を信じて、仕事を任せていきたいと思っています。

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