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冨永隆志
鹿児島県生まれ。日本医科大学医学部卒業、日本赤十字社医療センター初期研修医として研修を積んだのち、慶応義塾大学眼科学教室に助教として入局。2020年に日暮里眼科クリニックを開業、地元である鹿児島県に分院を開設。医師として働く傍ら、Japan General Aviation Service(JGAS)の取締役を兼任。パイロット志望の若者の夢を支える仕事もしている。
https://www.nipporieyeclinic.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年7月 取材時点のものです。

INTERVIEW

私のクリニックでは、患者様参加型医療を実践しています。患者さんが途中で通院をやめてしまう理由の一つは、何のために治療をしているか分からないからだと思います。私の目標は、しっかりと説明することによって、患者さんがかかっている病気の知識を眼科医のレベルまで引き上げることです。医者の知識と患者さんの知識の量を同じくらいにできれば、治療がスムーズに進むと考えています。

二つの夢を抱いた少年時代

冨永隆志

私は生まれつきの弱視を患っており、それが発覚したのは、両親と祖母が私の見方がおかしいと気付き、3歳児検診を受けたときでした。それから宮崎県にある弱視専門の病院に通うことになったのですが、私が住んでいた鹿児島県いちき串木野市からは、電車で片道2時間半くらいかかります。それだけでも大変ですが、病院に着いた後も診察までかなり待つので、通院は一日がかりでした。

目の治療をしていた私が小学生のときに抱いていた将来の夢は、飛行機のパイロットになることでした。家族みんなが飛行機が大好きで、小さい頃から鹿児島空港の滑走路の着陸ポイント下にある道路に行き、離着陸を見上げていました。休みの度に見ていたため、私も飛行機がとても好きになっていきました。ご存じのとおり、パイロットは矯正視力が1.0以上ないとなれない職業です。小学校高学年の頃には、自分はパイロットになれないことをなんとなく理解していて、残念に思ったことを覚えています。ですが、子どものころにそのことに気付けてよかったとも思っています。幼ければ、将来にまだ別の可能性を見いだしやすいので。パイロットになれることを少し期待しつつも、中学生になったときにはすでに別の目標を見つけていました。

その目標というのが医者であるわけですが、きっかけになったのは、1990年に起こったあるできごとです。ソビエト連邦のサハリン州から、大やけどを負った子どもが超法規的に札幌に運ばれ、医療従事者の懸命な治療によって、一命を取りとめることができました。それを知って漠然と医者に対する憧れを抱くようになっていました。医学部に入学し、初期研修で日本赤十字社医療センターの総合診療プログラム(救急)に入りました。出身大学が救急で有名だったことと、医者を目指すきっかけになった前述のできごとで治療を行った病院の一つが救命救急センターのある旭川赤十字病院だったからです。医者は研修期間の2年の間に自分の専門を決め、基本的にその専門で医師として活動していくことになります。救急コースに決めようかどうか迷っていたときに、幼いころの自分の経験から眼科がよぎりました。研修中に病院内で弱視の子どもに出会ったことも大きかったと思います。熟慮を重ねた結果、私の医師人生をささげるのは眼科だと決断をしました。

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かなわなかった夢を、黒子として支える

2020年に独立し、日暮里に眼科クリニックを開業しました。日暮里は出身大学から近く、医学部時代から慣れ親しんだ場所であり、第二の故郷のように思っています。また山手線などが通るターミナル駅である日暮里駅があり、通院がしやすいという点も日暮里を選んだ理由です。

このクリニックの一番の特徴は、視能訓練士が常駐していることです。視能訓練士は国家資格を持ったスペシャリストで、視機能の検査や矯正訓練を専門に行います。視能訓練士がいることで、大学病院と同じような検査をすることが可能です。また子どもの斜視や弱視から、高齢の方がなりやすい病気まで、手術以外のことを全て行っています。様々な大学病院で活躍されている医師にも非常勤として来てもらっていて、最新知識が集まることも患者さんにとってメリットになるのではないでしょうか。今年、地元鹿児島県に日暮里眼科クリニック鹿児島天文館院を開設しました。私が子どものころに通っていた病院と実家の間くらいの場所にあり、その周辺の地域医療を担っていきたいと考えています。

実は私は医者でありながら、航空機を扱う会社の役員を務めています。その会社の業務の1つがパイロットの育成なのです。SKYCAMP(スカイキャンプ)という操縦飛行体験プログラムやフライトトレーニングセンターを鹿児島空港内で運営しています。私はそこでパイロットやパイロットを志望する学生に対して、航空医学の授業を行なっています。また眼科以外にも医学全般を学んでいますから、健康に不安があれば相談してもらうことも可能です。自分の夢だったパイロットの養成に関わることができているので、それだけで今は非常に満足しています。パイロット養成に携わることはなかなかできることではありません。その養成に携われていることに感謝の気持ちを持ちながら、これからも医師であるとともに、航空業界の黒子としてパイロットを目指す若者を支えていければと切に願っています。

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