- 谷口一貴
- 高校卒業後、海上自衛隊に入隊。潜水艦勤務を経て退官後、単身渡米。米国にて語学学校に通いながら、飛行機の操縦免許を取得する。その後、前身となるRandyWorksを設立し、現在のFLIGHT TIMEを創業。このような業種としては日本初となる2026年の株式上場にも向け、パイロット育成やそのためのシステム、アプリケーションの開発に注力している。
- https://flight-time.jp/
高校2年生のときに、台風による被災を経験しました。川の堤防が決壊し、家が流されてしまいましたが、避難の準備をしておらず、財布と携帯電話、1、2泊分の着替えだけを持って家を飛び出しました。避難先で、いつ何が起こるか分からないから、常に準備をしておかなければいけないと感じました。この考えは会社を設立した今にもつながっています。パイロットは多くの乗客の命を預かっており、安全な運航を行わなければいけません。いつどのようなトラブルがあっても適切に対処できるよう、備えておくように話をしています。
私たちは、海外でのパイロット訓練、いわゆるパイロット留学をあっせんする事業を主に行っています。昨今、世界中でパイロットが不足しており、その需要を補うために、効率よくかつ低予算で訓練できるようにアレンジしたサービスを提供しています。
高校卒業後、海上自衛隊に入隊し、潜水艦勤務をしていました。初めはパイロットを希望していたのですが、試験に合格することができませんでした。ただ被災経験もあることから、人々の暮らしを守りたいという思いを捨てることができず、海上自衛隊に入隊したのです。しかし、パイロットになりたいという憧れは日々高まり、思い切って退官しました。単身渡米をし、語学学校に通いながら、パイロットになるための勉強をし、操縦免許を取得しました。しかし、パイロットとして生計を立てていくためには免許の取得だけでなく、訓練をする必要があります。そのためにはさらにお金も時間もかかります。現実的に、これ以上訓練を続けることはできないと判断し、夢を諦めました。おそらく私と同じ理由でパイロットになる道を閉ざされる人は多いはずです。「もっと低予算で学べれば」「効率よく訓練できれば」という実体験から来る悔しさが、今の事業の着想につながっています。パイロットが履歴書を書くときには、経歴に加えて飛行時間を記載します。空の世界では学歴や年齢ではなく、飛行時間が序列を決めるのです。ですから飛行時間を積み重ねていくことが一つの財産であり、その手伝いをしたいという気持ちの表れが社名になっています。
事業を始めた際は、パイロット留学のコンサルタントのみを行っていました。しかし、新型コロナウイルス禍が終わればパイロットの需要も増えるでしょう。そこに狙いを定め、より多くの人にパイロットになるためのチャンスを与え、より多くのパイロットを輩出することに貢献したいと考え、事業の拡大を決めました。
パイロットに技術があるのは必須の条件です。むしろ技術に自信のない人には向いていないでしょう。では、どこでパイロットとしての差別化を図るかというと、私は社会性になると考えています。パイロットは国内外を飛び回る仕事なので、様々な人と接することになります。あいさつができることや、情報収集のためのコミュニケーション能力は、日本だけでなく世界中で通用すると思います。
また社会性がないことによって、プライベートでトラブルが発生したときに解決法やどこに相談すべきか分からないということも起こりえます。その悩みを抱えてフライトをした結果、メンタルに起因する事故や、誤った操作をしてしまうということが増えており、これは近年業界内でも問題になっています。そうしたことを未然に防ぐことを重要視し、社会性の教育というものを強く推し進めています。社会性を身に付けるためには協働、習慣、学習の3つが必要だと感じます。協働というのは協力して働く、つまりチームワークです。次に習慣、そして学習です。この3つが重なることによって、パイロットとしての社会性が養われることを期待しています。現在進めているプロジェクトの一つに、高校生や大学生を対象とした勉強会があります。そこで学生のうちから好きなことを学ぶことの大切さを教える予定です。パイロットになるためには、苦手なこともある程度学ばないといけません。しかし、ただ苦手なことだけを学ぶ、克服するのではなくて、勉強する習慣、調べ物をする習慣を身に付けてほしいと思います。それがパイロットになった後の自分を助けることにもつながるはずです。
パイロット不足が解消されない状況が続くと、パイロット育成の需要も高まるでしょう。日本では育成するための教育機関が少なく、設立するにしても時間やお金がかかります。その入り口のハードルを少しでも下げるための事業として行っているのが、アプリケーションとシステムの開発です。これによってパイロット育成の効率化や教官、整備士の日常業務の負担軽減につながると考えています。また性別に関係なく働ける社会づくりをしていくことも目標の一つで、女性パイロットの世界進出の支援にも取り組みます。大手企業はすでに実施していますが、私たちのような小さな企業レベルで推し進めていくことに意義を感じています。