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田中榮一郎
1963年、東京都生まれ。87年東急リバブル入社。88年、父が経営する日東建設興業(現・ニットー住宅)入社。97年、代表取締役に就任。2005年から自然素材の住宅建設を開始、現在に至る。
https://www.0210.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年11月 取材時点のものです。

INTERVIEW

尊敬する松下幸之助さんとやなせたかしさんが亡くなった時の年齢は、94歳でした。私も、自分の天寿は94歳と決めています。それもベッドの上ではなく、仕事や趣味をしているときに急死するのです。これからも、住宅業界だけでなく色々な業界にチャレンジし続けて、94歳でPPK(ピンピンコロリ)で逝きたいです。

自然素材の安全な家づくり

田中榮一郎

私たちの会社は、自然素材を使った注文住宅づくり、不動産の売買、リノベーションをしています。快適で安全な住まいづくりを通して、住む人の幸福を追求しています。自然素材を採用したのは、私の息子が喘息を患ったことがきっかけです。かつてはビニールクロスや合板といった安価な石油化学製品も使っていましたが、それらを使った家は調湿性が低く、カビやダニを発生させ、健康被害を引き起こします。それが息子の喘息の原因でした。お客様には健康でいてほしいですし、息子のような子どもを増やしたくないので、石油化学製品の影響を知ってからすぐに自然素材に舵を切りました。自然素材の家は空気感がとても良く、完成後の引き渡しでお客様が感動の涙を流されることもあります。住まいは「にんべん」に「主」と書きますが、まさに家の主役は住む人です。これからも、人が主役になれる快適な家を提供し続けていきます。

私たちの会社の創業者は父で、私は2代目です。もとはダムなどの大きなものを造りたくて、大学では土木工学を学びましたが、父が一生懸命経営している姿に胸を打たれ、就職活動をする頃には父の後を継ぐことを考えるようになりました。大学卒業後は不動産仲介業に就職し、その後今の会社に入りました。建築の知識がないままいきなり現場監督になり、右も左も分かりませんでしたが、先輩や職人に教えてもらいながら、一つひとつ覚えていきました。

父の会社に入って何より悩んだのは、ものごとの判断基準です。当時の会社のルールは父で、すべては父のその日の気分で決まっていました。相談すれば「そんなことは自分で判断しろ」と言われ、自分で判断すれば「なんで勝手にやるんだ」と怒られる始末でした。どうしたものかと途方に暮れました。あるときから、大事なことは相談し、小さなことは自分で判断するようにしたら、急に何も言われなくなりました。そうして徐々に自分で色々なことをコントロールできるようになり、少しずつ仕事が楽しくなっていきました。

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まず誠実であれ

腹をくくれたタイミングで、自分から父に「継がせてください」と切り出しました。父は「それを待っていた」と、喜んでいました。従業員には、「まず誠実であれ」と伝えています。注文住宅はお客様に車のように試乗をしてもらえませんし、完成形をお見せして販売できません。プレゼンでお見せできるのはせいぜい1/50の平面図やパース図です。お客様はその紙の情報を信用して、何千万円という契約をしてくださいます。だからこそ、お客様とは心と心でつながっていなくてはなりませんし、誠実でなくてはなりません。先義後利という言葉がありますが、道徳(義)と利益なら、大事なのは道徳の方です。

経営は、ゴルフのパターと同じです。やり方やコツは教われるものではなく、自分でつかんでいくしかありません。近年の経営を取り巻く環境は変化が激しく、つい先日までの成功体験が通用しなくなることもよくあります。そんなときにいつも勇気をくれるのが、江戸時代の儒学者、佐藤一斎が残した「窮(きわ)む可(べ)からざるの理なく、応ず可からざるの変なし」という言葉です。これは「この世の道理はどんなに困難であっても解明できないものはなく、また世の中が目まぐるしく変化したとしても、対応できない変化はない」という意味です。私も、世の中の変化にうまく適応していきたいと思います。

若者の皆さんには、「成功曲線」を意識しながら進んでほしいです。「成功曲線」とは、最初はなかなか上がらなくても、最後に一気に上がるというものです。飛行機を想像してみてください。小さい飛行機はすぐに離陸できるけれど、ジャンボジェット機はなかなか離陸できません。しかし、滑走路の終わりごろにようやく離陸しても、燃料をたくさん積んでいる分遠くまで飛んでいけます。これは人間も同じです。なかなか成果が出ない期間も、ちゃんと「成功曲線」に乗っている実感を持って、諦めずに続けてください。今はうまく行かなくても、最後の最後にフワッと上がっていきます。そして、二宮尊徳の言葉「至誠と実行」で行きましょう。「至誠」とは、この上なく誠実なことです。頭でっかちになっていても事は成りませんから、どんどん行動してください。

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