- 鈴木さち代
- 1967年静岡県出身。北海道大学歯学部卒業後、鶴見大学歯学部小児歯科学教室に入局。在籍中、府中療育センターなどの障がい児の診療にも従事。2000年、川崎市高津区で小児専門の歯科医院である橘こども歯科医院を開設。18年、川崎市中原区に移転、医院名をさちこども歯科として現在に至る。
- http://www.tachibanakodomo-dc.jp
子どもの成長を見守る上で、「ひとりで抱え込まない」ことはとても大切なことです。そのため、来院するお子さんを私と一緒にいつも見守ってくれるスタッフたちには本当に感謝しています。私が子どもの全身をくまなく診る間に見落としそうな小さなむし歯をスタッフは逃さず見つけてくれます。チーム全員でそれぞれ違った視点からじっくり診ますが、患者さん親子に笑顔でいてほしい、幸せでいてほしいという思いは同じです。このチームでやってきたことが私たちの強みであり宝だと思っています。
実家で母がそろばん塾をやっていて、子どもが絶えず出入りする環境で育ちました。そのころから小さな子どもと接するのが好きだったように思います。大学で歯学部に進みましたが、子どものころは健康優良児で歯医者とは無縁でした。そのため、かえってむし歯がこわく、むし歯にならないために治す側になって歯のことをよく知りたいと思ったのかもしれません。
大学卒業後は鶴見大学の小児歯科学教室に入局して子どもだけを診てきたので、33才で開業する時も迷わず子ども専門のクリニックにしました。「これから少子化がますます進むのに」と周囲にはずいぶん心配されました。夫や開業した先輩にも反対されましたし、銀行にも融資を渋られたほどです。しかし少子化だからこそ、子どもは大切にされ、ますます専門性が求められるようになるというのが私の考えでした。大人の歯を診る歯科医なら私でなくとも他にいるので、私は小児歯科医として専門性を突き詰めていこうと決意しました。歯の詰め物のクオリティーに自信があったので、開院当初は「取れない詰め物」を前面に押し出していました。評判を聞きつけた患者さんが次々に来院し、削って詰める作業を連日繰り返していましたが、むし歯の患者さんが減ることはありません。次第に自分のやっていることが正しいのか悩むようになりました。
ちょうどそのころ「あいうべ体操」を考案した内科医の今井先生の講演を聴く機会がありました。その中で「全身を診ないと口は育たない」という話に私は、感銘を受けました。その後も助産師の話、保育士の話、療育の話など歯科以外の講習に何度も足を運びました。クリニックでも「口腔(こうくう)の発達と全身の発達は関連する」という考え方を元に歯の生える前の乳児期からの予防歯科を始め、母乳やミルクの飲ませ方、離乳食の食べ方から遊び方に至るまで、子どもの生活習慣と口の様子を診ながら全体的なアドバイスをする方針へシフトしました。
むし歯治療の進め方も大きく変わりました。すぐに削って埋めるのではなく、フッ素や進行止めの薬を塗りながら経過を見守ることで、永久歯に生え変わるまで削らずにもたせることができるケースが増えました。むし歯は悪者のように思われがちですが、生命の危機を教えてくれるサインでもあります。むし歯が伝えてくれるメッセージに耳を傾けながら付き合っていくのも大切なことです。そもそもなぜむし歯になるのか原因を突き止めなければ、根本的な改善にはつながりません。普段の生活の様子を知るために、親ともたくさん話をします。「本当に削らなくていいんですか」と心配する人もいますが、子どもの成長する力、治る力を信じて見守ることの大切さを伝えるようにしています。
親が我が子を大切に思う姿をいつも間近で見せてもらうのですが、いろいろな話をする中で不安を抱えている親が非常に多いと感じます。ネットでもメディアでも不安になる情報ばかりがあふれているので、無理もありません。そんな親に対して「大丈夫」「自信を持って」と声を掛け、安心させてあげることも私の役割だと思っています。2年前にクリニックのそばに子育てサロンを併設しました。街の保育士や栄養士などを交えてお茶を飲みながら気軽にお話や相談ができます。子どもがきちんと成長していることを実感できれば、親はそれだけで安心して子どもを信じることができます。親が信じてあげれば、子どもも安心してのびのびと成長できます。
昔の私は自己肯定感が低く、自分にダメ出ししてばかりでした。「自分はどうなってもいい」という自己犠牲の精神で働いていました。しかし、私が元気でなければ、来てくれる子どもや親を元気にすることはできません。そのことに気付いてからは、ゴルフやダンスなど新しいことに挑戦するようになり、気持ちも前向きになりました。動いたことで道が開けたと思います。若者のみなさんもまず動いてみてください。動いて人とかかわることで人生が変わります。変化を恐れず行動を起こしてください。