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鈴木博彦
15歳でサッカー選手を目指しブラジルへ留学するも、練習中に負傷し、右目の視力を失う。失明のショックで急性錯乱障害や自律神経失調症を併発するも父の誘いで19歳で鈴興に入社。2016年、35歳で代表取締役に就任。積極的に新規事業開拓に努める。中でも07年に開始したLED事業は、同社の主力製品の一つとなった。また、自ら摂生を啓蒙することで社内の全面禁煙化を果たし、社員の健康増進にも注力している。
http://suzukoh-970.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2022年11月 取材時点のものです。

INTERVIEW

右目の視力とサッカーへの夢を同時に失い、ブラジル留学から帰国しました。絶望の中、一緒に働かないかと、父から声を掛けられました。父の会社で働くということは、将来的に会社を承継することを意味します。私は腹をくくりました。「親の敷いたレール」は、乗ってからが勝負です。二代目と揶揄(やゆ)する声を背に、入社当時から新規事業に挑戦し続けました。組織を変えるには、自分が変わる姿を見せればいい。夢を諦めたあの日から、覚悟はすでにできていました。

絶たれた夢から生まれた道

鈴木博彦

小学校でサッカーに出会い、中学卒業と同時に、プロのサッカー選手を目指してブラジルへ留学しました。私の家族は創業者一家で、祖父が自動車用のアルミホイールを製造するエンケイを立ち上げて、それを叔父が引き継ぎ、父がそのグループ会社である鈴興を経営しておりました。父にしてみたら、当然自分は跡継ぎ候補だったはずです。そんな中で私の夢を尊重してくれたことに、心から感謝しています。

15歳の私にとって、地球の裏側の国、ブラジルは、全く未知の世界でした。教育や価値観、言語、全てが異なるカルチャーの中に自ら飛び込んだのです。その頃に得た、「やってみなければ何も生まれない」という価値観や、知らないところに自ら飛び込む勇気は、今の仕事にも役立っていると思います。

留学して2年目、ヘディングシュートの練習中に網膜剝離を起こし、緊急帰国を余儀なくされました。帰国後すぐに大学病院で手術を繰り返しましたが、結局右目を失明してしまいました。失明した事実より、もう二度とサッカーに関わる人生へ戻れないことに、子どもながらに強いショックを受けました。絶望して不眠になり、急性錯乱障害や自律神経失調症、統合失調症を併発するなど、2年間ほどは絶望と病気との闘いでした。両親には多大な心配と迷惑を掛けてしまったと思います。だからこそ、会社で働かないかと誘ってくれたときの父の顔が、忘れられないのです。あの顔を見たら、中途半端なことはできません。サッカーへの夢は絶たれた。それならば今度はこの道を最後まで進もうと、私は腹をくくりました。

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新しい物への挑戦と、普遍的価値へのリスペクト

私の世代は、年配者の考えも、若者の考えも両方分かるのです。年配の社員が大切にする伝統やポリシーも分かりますが、私自身は常に新しいものにチャレンジする姿勢を、入社当時から大切にしてきました。それを体現したのはLED事業です。07年、ちょうど地デジがはやり出したころ、韓国の業者から輸入してLEDの販売を始めたのです。まだ日本では2社ぐらいしか扱っていませんでした。既存の電球と比較して、消費電力が3分に1程度まで下がる上に、寿命が10年も持つ耐久性があるとは、当時はなかなか信じてもらえませんでした。そこを粘り強く交渉して販売量を伸ばし、今やわが社の主力商品のうちの一つです。現在では、街灯、病院、工場、店舗、家庭でも、日本中でLEDが使われています。

私は常に新しいものを探し、取り入れていくことに注力していますが、失ってはいけないものがあることも理解しています。特に、本社のある浜松は、製造業が盛んな「職人気質」の街です。昨今IT化が進み合理的な考え方が重視されますが、だからといって理論と情熱どちらかに振り切る必要はないと思うのです。私は彼らの職人気質、「自分たちは良いものを作れば、お客さんに納得してもらえば、それが一番なんだ」という誇りを尊敬しています。古くても新しくても、良いものは良い。経営者としてそれを見極めなければなりません。年齢や価値観にギャップがあっても、お互い良い部分を認めあい、切磋琢磨(せっさたくま)していけばいいのです。

今の若者は、もう十分に賢い。あらゆることをインターネットで学べるし、得た知識で合理的に業務をこなすことについては卓越しています。時代の流れがますます早くなっている現在では、私たちが若者から学ぶことは多いでしょう。ただ、どの時代でも不変の「諸行無常の三原則」というものがあることを、若い方にも知っていてほしい。「同じことは永遠に続かない」「形あるものはいずれなくなる」「人間はいつか死ぬ」。よりよく働き、よりよく生きるために、ともにこの三原則を常に心に刻んで歩んでいきましょう。

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