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染谷幸宏
埼玉県加須市出身。春日部工業高等学校を卒業後、新卒で帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)に入社。4年間勤務した後、関東医学研究所に転職し血液センターに勤務。その後に湯灌納棺会社の求人広告を見たことがきっかけで、現職の業界へ。営業所を異動しながら7年間勤務した後、今までの経験を生かし1999年に有限会社統美を設立。2019年、故人様高保湿ミスト「看送水」を商品化、販売を開始。現在に至る。
https://toubi-tokyo.com/
※本サイトに掲載している情報は2021年8月 取材時点のものです。

INTERVIEW

転職を考えていたときに求人広告のキャッチフレーズに興味をひかれたことを機に、お別れの場に携わることになりました。亡くなった方にきれいになってもらい、ご家族やご友人にしっかりお別れをしてもらいたい。大切な方とのきちんとしたお別れは、残されたご家族やご友人の気持ちの区切りにもなり、命の大切さを肌身で感じられる機会にもなるのです。

心を込めて、最後のお別れを

染谷幸宏

現職に就く前のある日、「心ある人の心の業務」というキャッチフレーズを掲げている求人広告に出会いました。その言葉に惹かれて求人元の湯灌(ゆかん)納棺会社に面接に行ったのが、この業界に足を踏み入れるきっかけでした。面接に行くと、「ちょうど時間があるから、実際の仕事現場に行って見ていったらいいんじゃないか」と言われ、同行させてもらうことになりました。

そこで目にしたのは、湯灌をしてきれいになられた故人様を見て、ご家族がとても喜んでいる場面でした。その姿に自然と涙が溢れてきたことを今でも鮮明に覚えています。連れて行ってくれた先輩に「おまえ、どうして泣いているんだ」と驚かれましたが、それだけ心を揺さぶられた現場だったのです。亡くなられた方がどう生きてきたのか、その経緯は当然のことながら知りません。そうした見知らぬ方々にも、それぞれに一生懸命に生きてきた人生があります。湯灌納棺の仕事は、お一人お一人の人生を尊ぶことができるものなのだと感じました。

人生の最後の姿をきれいにして旅立ってもらいたい。きちんとお別れをしてもらいたい。しかし、故人様をきれいにすることが特別なオプションのように捉えられているのが現実で、思いとのギャップに違和感を抱いていました。金銭的に厳しい場合であっても、心残しのないお別れのお手伝いがしたいという思いで、志を同じくする仲間と3人で会社を立ち上げたのです。幸い、順調に依頼が増え、会社も大きくなっていきました。着せ替えと湯灌のみが主流だった業界に、「湯灌費用が厳しい場合でも、きれいにできるように」とメイクのメニューを立ち上げたところ、さらに依頼が増加。創業10年目に自社ビルを建てるまでになりました。しかし、その直後に売り上げが減少してしまい、自分たちの仕事を見つめ直すことになりました。いつしかビジネスにばかり目を向け数字を追うことに必死になるあまり、初心が薄れていたことに気づいたのです。そこで、他社との差別化を意識するのではなく、自分たちの信じる道を進む独自化でいこうと原点に回帰することにしました。お別れは人生の営みの葬送の儀であり、私たちはそれを支えていきたいと思い直し、共感していただける葬儀社と仕事をやっていくことにしたのです。

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お別れは人として大切な営み

現在、統美では営業活動をしていません。それでも、毎月2、3社の新規のお取引が増えています。口コミで当社を知ってもらったり、既存のお客様からご紹介いただくケースが多いです。故人様をきれいにし、ラストメイクをするという持ち場を大切にし続けることで、当社の考え方に共感してくださる取引先が増えました。「統美なら大丈夫、任せられる」と思っていただけるのは、非常にうれしいことだと思っています。ご遺体の損傷が激しく、きれいにするのが難しい状態の故人様をお願いされるケースも中にはあります。「できるだけのことをする」としか答えられないようなケースでも、残されたご家族のお気持ちを考えると、持ちうる技術すべてを駆使して、お一人お一人の物語の終わりを大切にしたいと強く感じます。差別化でなく、お一人お一人に心で接する独自路線に切り替えてからは他社を気にしなくなったため、他と比べたわけではありませんが、他にはできないだろうという自負を持てるだけの仕事をしていると言い切れます。

日本では、まだまだ亡くなられた方をきれいにする文化がそれほど根付いてはいません。映画「おくりびと」により認知度は上がりましたが、それでもまだまだ「最低限でいい」という意識があるように感じます。そもそも、お別れの儀に対する考え方も随分と変わりました。しかし、通夜・葬儀でお別れをきちんとすることは、ご家族・ご友人が悲しみを受け止め、明日に向かって歩み出す気持ちの区切りにつながる大切なことなのです。「生前、葬儀はいらないと言っていたから」と、故人様の残した言葉を真に受け、お別れの場を設けずに終えてしまうと、後々になって精神に不調をきたすといったこともあるのです。

また、お別れに向き合うと、自然と命の大切さを見つめることになります。自分や他人の命の大切さを身をもって知る人が増えれば、虐待やいじめ、自殺問題を軽減できるのではないでしょうか。今後は、そうした問題を学び、軽減できる活動も行いたいと思っています。

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