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篠原欣子
1934年生まれ、神奈川県出身。高校卒業後、三菱重工業などでの勤務を経て、ヨーロッパに留学。その後オーストラリアに渡り、派遣システムに出会う。73年帰国し、テンプスタッフを設立。2006年、東京証券取引所一部に上場。08年にはテンプホールディングスを設立し、派遣、紹介、アウトソーシング、メディア事業など幅広く人材ビジネスを展開。保育や女性の再就職支援など、女性の就業支援にも注力している。
https://www.tempstaff.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2008年4月 取材時点のものです。

INTERVIEW

私の母が助産師だったんです。父が早くに他界して、5人の子供を女手一つで育ててくれました。資格を持ち自立して働く女性なんて日本ではまだ珍しかった時代。仕事となるとキリリとしたプロの顔になり、さっそうと出かけていく母は私の憧れでしたし、強く影響を受けました。 私は学校推薦で就職して事務の仕事をしていましたが、母のように「手に職を持っている」わけではなかったので、このままで終わりたくない、何かをつかみたい、とずっと思っていましたね。

これだ、と思ったら一直線

篠原欣子

学生の頃から英語が好きだったこともあり、職場近くの英会話教室に通い始めました。そのうちにどうしても海外に行きたくなり、八方手を尽くしてスイスとイギリスに留学しました。日本人がほとんどいない海外で暮らすのは怖いし寂しいし不安でしたが、それ以上に何かをつかまなきゃと、とにかく夢中でした。異文化に触れたことで、孤独に打ち勝つ強さとか、多様性とか、素晴らしい価値が身に付いたと思います。

帰国後は、外資系企業の社長秘書になりました。仕事に不満はなかったけれど、もっと海外で勉強したくなり、毎日求人欄をチェックしていました。そんな時、シドニーのマーケティング会社が日本人秘書を募集する広告を見つけ、これだと思ってすぐに手続きをしてオーストラリアに飛びました。

楽しかったですよ。当時のオーストラリアでは、女性の経理部長やスーパーバイザーもいて、誰もがいきいきと働いていました。日本ではまだ、女性がどんなに頑張っても事務手伝いやお茶くみで終わってしまうような時代でしたから、とても新鮮でした。ある時一人の社員が休暇を取ったのですが、その間、見知らぬ人がやって来て、誰に教わるわけでもなく休んだ社員の代わりに仕事をきちんとこなして帰るのです。一体あの人は誰なのかと同僚に聞くと、テンポラリー(臨時)スタッフだと教えてくれました。こんな便利なシステムがあるのかと強く印象に残りましたね。

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ないなら自分で作る

日本に帰って仕事を探しましたが、女性がいきいきと働けるような環境は相変わらず整っていないのが現実でした。ないなら自分で創ろう、オーストラリアで見たテンポラリースタッフのシステムを日本で起業してみようと考えました。私が38歳の時です。社長になるなんて気負いはなく、必要な時に必要な人材を派遣する効率的なシステムを広めることで、女性の働く機会を増やしたいという気持ちだけでした。

始めた頃は電話と机一つ、ベッドをソファーで隠したワンルームマンションが事務所で、姪に電話番をお願いして、外資系企業にパンフレットを配り歩きました。3カ月ぐらいはほとんど仕事がありませんでしたが、先に派遣するスタッフにお給料を払って、その後企業から入金があるしくみでしたから、常にお金がありません。夜間は事務所の看板を英会話教室に替えて副業し、日銭を稼いでいました。ようやく軌道に乗り始めたと思うと、次は「人を企業に派遣してお金をもらうのは違法になりますよ」と官庁から連絡が入りました。ニーズがあるのにどうして?とたくさん落ち込んだし、起業を後悔したこともありました。でも自分に負けたくなかったのです。それに、登録者や企業に「いつもありがとう。またお願いします」と感謝されることで、やらなきゃと奮起し、続けることができました。1986年に労働者派遣法が施行され、人材派遣業が合法と認められてからはバブルの勢いも手伝い、事業も拡大しました。

現在は、テンプグループとして派遣から紹介、アウトソーシング、メディア事業など、幅広く人材ビジネスを展開し、雇用の流動化と安定化を実現する人材創造のプラットフォームを目指しています。同時に育児と仕事の両立や再就職支援など女性の就業支援にも注力しています。環境変化に適応し、常に働く人や企業のニーズに応えられる企業でありたいですね。

まずは失敗を恐れず何にでもチャレンジしてほしいと思います。失敗は成功の母。失敗から学ぶことが本当にたくさんありますから。そして「これをやる!」と決めたら簡単にはあきらめないこと。置かれた環境で一生懸命頑張ること、続けることで仕事の面白さも芽生えてきますよ。

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