- 島田薫
- 1968年生まれ、東京都出身。92年、東京国際大学卒業後、明電舎に入社し10年営業職に従事。その後2002年荏原商事入社。04年代表取締役就任。就任後、社内改革に着手し売上規模4割増の改革をけん引。現在100年企業に向け社会的責任(CSR)にも注力。アスリート支援では多岐にわたり若手スポーツ選手の育成・輩出に貢献している。
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私たちはつい結果ばかりを求めがちですが、大切なのは結果に至るプロセスです。若者のみなさんは、これから仕事でたくさんの成功や失敗を経験することになるでしょう。そのプロセスに着目して「どうしてこの結果になったのか」を突き詰めることで、人は成長します。失敗を恐れることはありません。挑戦することで、自分の可能性をどんどん引き出してほしいと思います。
実家は会社を経営し、上下水道施設の設計施工を手掛けていました。私が子供の頃の父はいつも忙しく、家でじっくり話すこともなかったので、何の仕事をしているのかよく分かりませんでした。そんな調子だったので、家業にはまるで興味がわきませんでした。
大学を卒業すると、父が紹介してくれた電機メーカーに就職し、公共、民間の施設に発電や変電のシステムを納入する仕事をしました。現場で怒鳴られたことは数知れずです。今思えばお客様からは本当にいろんなことを学んだと思います。指示されたことをこなすだけではなく、臨機応変に動いてトラブルを解決する経験を若いうちに積むことができたのは幸いでした。10年働いた頃、父が倒れたとの一報を受け、実家に帰りました。わずかな期間でしたが父と机を並べて働いた後、ほどなく父は他界しました。それまで家業に目を向けたことすらありませんでしたが、祖父の代から続く会社をここで終わらせるわけにはいかないと思い、後を継ぐ決意をしました。まともな引き継ぎもないまま、一介のサラリーマンが突然経営者になったわけです。最初の2年ぐらいはじっと会社の様子をうかがっていました。社員はみんな真面目で、お客様にも恵まれています。ただ、経営はどんぶり勘定で緩い印象でした。やり方次第でもっと利益が増え、社員にも還元できると考えて改革に乗り出すことにしました。決して財務状況が悪いわけではなかったので「今のままでいいじゃないか」と反発する社員も少なくなく、改革は容易ではありませんでしたが、若い社員たちは後押ししてくれました。若手経営者の団体で出会った仲間たちの考え方にも大いに刺激を受けました。経営コンサルタントに入ってもらい、経営理念を掲げ、事業計画を明確にし、複数のプロジェクトを立ち上げました。最初の頃に作った会議資料などは今見ると失笑ものです。それでも、継続することで少しずつ質を上げていきました。
私は改革を始めた当初から「売り上げ300億円」を掲げてきました。当時の売り上げは170億円ぐらいでしたから周囲には無謀だと呆れられましたが、少しずつ手ごたえが感じられるようになって今では毎年280億円近い売り上げを維持できるようになりました。私に代替わりしたことで、確実に会社が生まれ変わったという自負があります。
高度経済成長期に整備された水道施設が老朽化し、その修繕や更新に参入することで荏原商事は成長してきました。ところが節水技術が進み水道料金の収益が減少しつつある今、更新の予算が捻出できない施設が増えています。水道事業にかかわる技術者も少なくなってきました。今までと同じことをやっていては、会社は衰退していくでしょう。自社製品を扱うだけではなく、たとえば他業種と連携しながら配管工事や水道料金の徴収など新しいことにも取り組むことになるかもしれません。たとえ大手や外資系企業が参入してきたとしても負けないように、次の一手を考えています。
スウェーデンで世界の水問題に関する会議WORLD WATER WEEKの式典に参加する機会があり、海外にも目を向けるようになりました。いきなり海外の公共事業を担うことはできないので、まずは現地の小さな民間企業などにアプローチしながら少しずつ事業を拡大していきたいと考えています。また、国内でも外国人を積極的に採用したい。海外では水道のインフラが整っていないために不自由を強いられたり命を落としたりしている人がいます。日本の水道技術を学んで、少しでも母国の発展につなげてもらえればうれしいです。最近は、女子プロバスケットチームのオフィシャルサポーターや女子プロゴルファーのアスリート支援、パラリンピック競技大会のスポンサーを務め、世界の舞台を目指すアスリートを応援しています。会社の名前が売れるというよりも、有望な若い人たちが世界に羽ばたく手助けができることをうれしく思います。
会社は創業75年を迎えました。改革はまだ道半ばです。100年企業に向けて、これからも事業の安定と新しいことへのチャレンジを続けていきたいと思います。これまで培った技術と新しい技術をうまく融合しながら、インフラで人々の当たり前の日常を守りつつ、進歩を遂げていく会社でありたいです。
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