profile
関岡清次
1949年生まれ、三重県出身。75年、三重大学を卒業後、同大学付属病院、尾鷲市民病院内科などを経て80年から三重大学第一内科で循環器の研究、診療、教育に20年間従事。88年米国ジョンズホプキンス大学留学。2006年に関岡クリニック開院。14年、社会福祉法人を立ち上げ、医療対応型介護施設を設立。著書に「実験・研究のためのプログラミング技法」(理工学社)など。
http://www.sekioka-clinic.org/
※本サイトに掲載している情報は2021年6月 取材時点のものです。

INTERVIEW

最新鋭の医療機器を駆使して、病気の早期発見を目指しています。特に患者さんの生命やQOL(生活の質)を左右する癌、心臓、脳血管疾患のような怖い病気は、症状が出る前に見つけることが重要です。症状が出てから手を打っても、後遺症を抱えることになったり、最悪の場合手術もできない段階まで悪化していることもあるのです。「検査は怖い」「症状がないから」と検査に消極的な方にも安心して気軽に受けていただけるよう、経鼻内視鏡や超音波エコーなど苦痛の少ない検査機器も取りそろえています。早期発見を徹底して、地域の健康寿命の延伸に貢献したいですね。

医師でありながらプログラマーの側面も

関岡清次

高校生のころは物理や数学が好きで、大学は地元を離れ工学部に進学しました。しかし、学園紛争の影響で地元に戻り、医学部に転向。電機や機械が好きだったので、生体の中の動態である心臓、循環器を迷わず専門領域に選びました。初期研修を終えて大学に戻ると、研究室には米国の最新型のミニコンやシステム解析機が導入されていました。さっそく触らせてもらい、心音の周波数解析などを試しました。新しいことへの探求心が人一倍強かったので、コンピューターを扱うことに没頭していましたね。時代はちょうど超音波エコーをはじめ、CT、MRIなどのデジタル機器が次々に台頭し、画像診断の技術が急速に向上し始めていたころでした。生体の信号の波形や超音波の画像など、世の中で初めて見えるものと出会う度に胸を躍らせていました。

80年代に入りパソコンが普及し始めると、独学でプログラミングを学びました。機械語でパソコンを使いこなせる研究者が少ない中、医療分野での活用を目指し、ソフト開発を手がけ、出版社からの依頼でプログラミングの専門書を2冊執筆しました。その後、大学で20年もの間、循環器系の新しい診断方法や解析方法をひたすら模索しました。開業医に比べると大学教員の給料は数分の1です。それでも、新しいことに挑戦できている満足感がありました。学会で今までにない画期的な発表をすることがモチベーションになっていました。

38歳の時、米国に留学し、独創性や起業精神を大切にする環境に感銘を受けました。成功するかどうかよりも、目新しいこと、オリジナルなことが評価されます。毎日のようにセミナーが開催され、仲間とランチに出かけてもサイエンスについてみんな熱心に議論していました。

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これから求められるのはITと機械に強い医師

50歳を過ぎ、若者へその道を譲ろうと考え、医療の原点、地域医療を実践しようと海が好きだったので風光明媚な南伊勢町にクリニックを構える決意をしました。大きな病院にひけを取らない高いレベルの診療ができるクリニックを目指し、開業1年以内に高性能な3次元CTやハイビジョン内視鏡などをそろえました。大学教員時代に培った知識と経験があったからこそ、すぐにこれらの機器を使いこなすことができたのだと思います。南伊勢町には高齢者が多く、複数の疾患を抱える患者さんが次々に来院します。私の専門は循環器ですが、精度の高いCTを駆使することで循環器以外に肺、腹部臓器はもちろん、整形外科、耳鼻咽喉科、婦人科などの領域まで診ることができますし、異変があればいち早く発見できます。専門医につなぐこともありますが、難しい手術などではなければ大抵の疾患に対応できるようになりました。

今後、医療AIの技術が進歩すれば、人よりも正確な診断が可能になるでしょう。そうなると、求められるのはITや最新機器に強い医師です。クリニックや診療所で精度の高い初期診断ができるようになれば、大きな病院で何日もかけて検査する必要もありませんし、病気を早期発見することで入院や手術をせず外来治療だけで済むケースも増えるはずです。こういった医療のダウンサイジングは、患者さんの心身の負担軽減や医療費の削減にもつながります。

医療はサービス業です。確かな技術のサービスと同じぐらい、患者さんに寄り添う心のサービスが大切です。患者さんは医療の知識がありませんし、検査や病気への不安からいろんなことを尋ねてきます。その気持ちに寄り添い、患者さんと同じ目線に立つことで、良い医療が提供できると思っています。「私は先生に命を預けているのだから、先生も健康に気を付けて」と言って頼ってくださる患者さんの言葉は本当にありがたいです。まだまだ頑張らなければと思いますね。

若者のみなさんには、大きな視野で自分を見つめ、5年先、10年先を戦略的に考えることをおすすめします。ただし、時には寄り道も必要です。どんな道を歩んだとしても得られることは必ずあります。私は若いころ決して戦略的ではありませんでしたが、それなりに挑戦を楽しんできました。新しい技術や思考が世の中に変革をもたらします。今誰も注目していないようなもの、不確かなことにも目を向けておくと、将来思わぬ形で役に立つかもしれません。頑張ってください。

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