profile
関豊成
1977年東京都生まれ。2004年。神奈川歯科大学卒業後、同大学附属病院、本厚木小林歯科医院を経て、07年関歯科診療所勤務。12年、院長に就任。
https://www.seki-shika.net/
※本サイトに掲載している情報は2023年7月 取材時点のものです。

INTERVIEW

歯科医になって、歯が悪くなった人を何千人も診てきました。どんなに完璧な処置をしても、高価な詰め物を使っても、「なぜ悪くなったのか」の根本の原因をなくさなければ、また同じことを繰り返してしまいます。結局は悪くならないように予防することが一番なのです。「虫歯の人がいなくなったら歯医者の仕事がなくなる」と言う人もいますが、大切な臓器である歯を削ったり抜いたりせずに済むならそれに越したことはありません。患者さんが苦しむ前に助ける。それが本当の歯科医や歯科衛生士の務めです。

父が遺してくれた教訓

関豊成

私の父も歯科医でしたが、「医者の不養生」で歯を悪くしていました。ある時、父にがんが見つかりました。手術を控えた父の歯をチェックすると、抜くしかないほど悪化している歯が何本もありました。手術まで十分な時間もなく、父の歯を入れ歯にしました。手術後、父は入れ歯を嫌がり「食事がおいしくない」と訴えました。慣れるしかないと何度も説得しましたが、父は食べなくなって衰弱してしまいました。決して入れ歯が悪いのではありません。しかし私がもっと父の訴えに耳を傾けて、どこを治せば快適に噛めるようになるか考えていたら、結果は違っていたかもしれないと悩みました。私を知る人はみな「考えすぎだ」と言ってくれますが、私の未熟さが父の寿命を縮めたのではないかと今も悔やんでいます。

自分のやり方を父に押し付けてはいなかったか。どうすべきだったのか。自問自答する作業はつらいものでしたが、その時間を持ったことで患者さんの声に真摯に耳を傾けるようになりました。被せ物の処置をした患者さんが噛みづらさを訴えた時は、何が原因か、どう改善すれば納得してもらえるか、患者さんへのヒアリングを重ねながら追究しました。試行錯誤を繰り返した末、ある患者さんに「若いころより今が一番よく噛めている」と言ってもらった時の喜びは今も忘れません。

また、歯磨きと定期検診がもっとも安価で手軽で効果的な治療法だと気付き、予防に重点を置くようになりました。すでに虫歯のある患者さんに対しては「本当に削る以外の選択肢はないのか」と常に考えます。削る場合もできるだけ歯が長持ちするように気を配ります。しかし私たち歯科医の仕事は、歯を削って埋めることよりも、定期検診や歯磨きの重要性を周知して患者さんの歯を守ることだと考えています。

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歯が悪くなる前の「最初の砦」でありたい

当院では初診でヒアリングにかなりの時間を割くので驚かれますが、患者さんと信頼関係を築くために必要なことです。歯科嫌いな人には今までどんなことが苦痛だったかじっくり話を聞き、不安な気持ちに寄り添います。そして患者さんの口の中の状況を写真付きのリポートを手渡して説明し、治療するかしないか、治療するならばどの治療法を選ぶか、一緒に考えます。

「治療がこわい」「先生やスタッフが厳しい」そんなイメージから歯科通いを億劫(おっくう)に思う人は大勢います。患者さんの歯を守るためにも、ヘアサロンに行くような感覚で気軽に通える診療所を目指してきました。ありがたいことに、父の代からの患者さんも変わらず通ってくれ、加えて地域内外の新規の患者さんもたくさん来ています。これも患者さんのためになると信じたことを愚直に続けてきた結果です。現在、歯にトラブルを抱える患者さんは私が診て、予防やメンテナンスの患者さんは歯科衛生士スタッフに任せています。歯科衛生士をさらに育成して、将来的に予防・メンテナンスに訪れる患者さんが8~9割になることが理想です。私が診る患者さんの人数が減る分、一人ひとりとじっくり向き合うことができます。私の出番が減るということは患者さんたちの予防の意識が高まっているということです。他の医院で無理だと言われた歯を治す「最後の砦」になれるのも幸せなことですが、それよりも歯が悪くなるのを食い止める「最初の砦」でありたいです。

尊敬する先輩や一流の人たちを見ると、自分の地位に胡坐(あぐら)をかくことなく貪欲に学び続けている人ばかりです。私も患者さんのために勉強に励み、自分に足りない部分を埋め続けていきます。先人たちが長年かけて習得したものを後進である私たちに分かりやすく伝えてくれたことへの感謝を忘れず、私たちも新たに得た知識や技術を次の世代に惜しみなく伝えていきたいです。患者さんに対してもスタッフに対しても常に対等でいることを心掛けています。「歯科医」と「患者」、あるいは「院長」と「スタッフ」である前に、「人」と「人」であることを忘れてはいけません。そして、誰に対しても敬意と愛情をもって接することが大切です。それがなければ相手は心を開いてくれず、信頼関係を築くこともできないでしょう。人への敬意と愛情があるから向上心をもって学び続けることができ、先輩や同業の人を敬ったり若手を育てたりできるのだと思います。敬意と愛情が私の原動力です。

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