- 佐々木公一
- 大阪府出身。福岡大学医学部卒業。大阪大学医学部腎臓内科入局。りんくう総合医療センター、地域医療機能推進機構(JCHO)大阪病院にて腎臓、透析診療の研さんを積む。父の死後、佐々木クリニック(大阪市鶴見区)を引き継ぎ、腎臓、透析専門の診療に従事する。
- https://sasaki-cl.info/
慢性腎不全を患う方は国内に1300万人以上いて、年々増加しています。しかし腎臓の専門医は多くありません。そのために適切な治療を受けられずに人工透析が必要となってしまう方や、逆に透析をする必要がないのに早くから透析を導入されてしまう方がたくさん存在するのです。私はそんな人を一人でも減らしたいと思っています。患者さんには笑顔で長生きしてもらいたいですね。自分や自分の家族が患者になった時に、「こんなクリニックだったら通いたい」「こんな先生だったら相談したい」と思えるような存在でありたいと思います。
医師の家系に生まれました。祖父は内科医で、父は腎臓の専門医。私は反発心もあって、医師にはなるまいと思っていました。高校生の頃、将来は人の役に立つ仕事をしたいと考えたのですが、いろんな選択肢を思い浮かべる中で、父が休日でも患者さんの治療方針に関して考えている姿を見て、やっぱり尊い仕事だなと思い直したんですよね。祖父や父に改めて話を聞いてみて、医学の道を目指すことにしました。研修中にいろんな科を回り、脳卒中内科と腎臓内科のどちらを選ぶか迷いました。最終的に腎臓内科を選択したのは、父と一緒に働いてみたかったからです。
勤務医として働き始めると、思った以上にハードでしたね。患者さんの病態が急変すれば、すぐに対応しなくてはいけません。特に最初は、患者さんがどのタイミングで悪化するか予測できなかったので、少しでも心配な患者さんがいれば病院に泊まり込みました。朝6時に帰宅してシャワーだけ浴びて7時に慌ただしく出勤するようなこともよくありました。3年くらいたつと仕事に慣れてきて、ある程度は仕事ができるようになったかなと思っていました。そんな時、上司に言われた言葉で忘れられないことがあります。「私が診ても、お前が診ても、患者さんにとっては腎臓内科の医師に診てもらったことに変わりはない。かかる費用も同じだ。お前は腎臓病にかかった時、どちらの医師に診てもらいたい?」
上司は著名で勉強熱心な医師です。私など到底かないません。上司と同じレベルになるためには上司よりも勉強するほかありません。このことがきっかけで、これまで以上に努力するようになりましたね。気が乗らない時や怠けそうになる時もありますが、患者さんに迷惑をかけてしまうかもしれないということが頭をよぎるので、楽をしようと思わなくなりました。医師の都合で患者さんの病気が治ったり治らなかったりするのでは申し訳ないですからね。
勤務医時代に、病状が悪化して搬送されて来る人工透析患者の方をたくさん診てきましたが、「そもそも、この人には本当に透析が必要なのだろうか」と疑問に思うケースが度々あったんです。透析を開始してからも、患者さん一人ひとりのライフスタイルや残腎機能まで配慮されることはほとんどないと開業して気づきました。透析をすると、一般的に週3日、1回4時間も針を刺し続けなければならず、仕事や生活に大きな制約が生じるのです。私はできる限り患者さんの負担を軽減できるような透析を提供したいと考えています。夜間の睡眠時間を利用したオーバーナイト透析や、週2回の透析など、様々な方法がありますから、患者さんには仕事や家族との時間を諦めないでほしいですね。いずれ、通院不要な在宅透析にも対応できるようにしたいです。
「人工透析なんかすれば人生終わりだ」というようなイメージを持つ方はまだ多いのですが、そうではなくて本来なら命を落としてしまうところをつなぎ留める、人生をリスタートできる手段だと前向きに考えてほしいですね。もし透析が必要になれば、少しでも透析開始を遅らせ、開始後も高いQOL(生活の質)を維持できるようサポートしていきたいと思っています。
今まで、自分の思い通りにいかないことや望まない状況に置かれることは山ほどありました。しかし、そんなときは悲観するのではなく努力し、それでも変わらなければ色々な角度からアプローチをしてみることです。状況は必ず好転するということを何度も経験しました。「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。禍福は予測がつかないものです。どんなことがあっても自分の信念を貫いて絶えず努力することで道は必ず開けます。