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大森雅美
1970年生まれ、埼玉県出身。事業者金融会社、不動産会社を経て事業再生コンサルタント会社に入社。資金繰り表を活用した独自の再生手法と不動産の捉え方でアセットアシストコンサルタントを設立。著書に『あきらめるのは早すぎる』(旬報社)『銀行から融資を受ける前に読む』(旬報社)『使える!資金繰り表の作り方』(旬報社)など。
https://aaconsultant.jp/
※本サイトに掲載している情報は2021年8月 取材時点のものです。

INTERVIEW

経営に行き詰まった会社の相談先といえば、まずは税理士事務所や銀行だと思います。ただ、税理士や銀行は会計資料の数字を見て分析するので「赤字続きの事業はやめてしまいましょう」というような合理的な結論になりがちで、それだけでは経営者の事業への思いが置き去りになってしまいます。その分析に経営者の思いや希望を加味して、問題解決のために共に実行していくのが私たち事業再生コンサルタントの仕事です。「再生の請負人」として経営者に寄り添うことを大切にしています。

貸し手から、借り手の味方へ転身

大森雅美

大学を出ると、大手金融会社に就職しました。主に社会的信用の弱い小規模事業者を対象に高めの金利で資金を融通する仕事です。多くの人の役に立っている自信がありましたし、返済に窮する人を見ると「借りたものは返さなきゃダメじゃないか」と思ったものです。そもそも事業基盤が脆弱な事業者が高利で資金を調達すれば立ち行かなくなるケースが増えるのは当たり前なのですが、若い頃はそこまで考えが及びませんでした。やがて高利の事業者金融そのものが社会問題となり、会社を辞めてしまいました。

借り手側として貸し手と交渉する時、かつての貸し手としての経験と知識がとても役に立ちました。クライアントにも信頼を寄せていただき、こんなにやりがいのある仕事はないと思いました。ところが、その矢先に勤め先が倒産してしまったのです。私には数社の顧問先があったので「御社の再生のめどが立つまでは私に責任を持たせてください」と頭を下げ、個人で仕事を請け負わせてもらいました。

率直に言って、事業再生コンサルタントの仕事をこの先も続けていくべきか迷いがあったのですが、「大森さんは、この仕事を通じて多くの人を助け続ける以外に道はないでしょう」という顧問先の社長の一言で、この道で生きていく覚悟を決めました。その社長はずいぶん前に引退されましたが、今でもお付き合いが続いています。

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必要なのは「会社のお小遣い帳」

経営者の方は決算書の損益計算を見て最終的な黒字や赤字を気にする傾向がありますが、その決算書の内容に実感を持って経営に生かしている方は多くありません。私は相談に来られる方に資金繰り表の作成をお勧めしています。経理担当者が管理のために作るような内容ではなく、経営者から見て、お金を増やすために何を削ればいいか、どこの支払いのペースを緩めればいいかといったことをすぐにイメージできる「会社のお小遣い帳」があれば便利です。お金の流れを把握しやすくなるだけでなく、将来予測や経営方針の立案にも役立ちますし、社内にも外部の取引先や顧客への説明資料としても活用できます。

私は独自のフォーマットを基にクライアントごとにカスタマイズした資金繰り表を作って対応していますし、著書でも資金繰り表の必要性を訴え、誰でも無料でダウンロードできる資金繰り表のフォーマットも提供しています。一人でも多くの経営者が資金繰り表を作成し活用することでお金の流れが明瞭になりトラブルや倒産を回避できれば、それが社会全体の安定につながると確信しています。「世の中を良くしたい」とか「日本を救いたい」というような壮大なことよりも、まずは自分を頼ってくれる人の力になりたいという思いで目の前の仕事に注力してきました。今のところ、すべてのお客様に私の目が行き届く状態ですが、今後はさらに多くの方のご相談に応えられる体制を整えていきたいと思っています。

禅の教えにある「何事にも不昧であれ」という言葉を信条にしています。「物事を曖昧にしない」とか「ありのまま受けとどめる」というような意味です。仕事や日常生活の中で、面倒なことを放置したり先延ばしにしたりしてしまうことは誰にでもあると思います。そんな時、私はこの言葉を唱えて自分を戒めるようにしています。若者のみなさんも、責任から逃げたくなったり楽な方に流れたくなったりすることがこれからたくさんあると思います。そんな怠惰な自分に打ち克つために、自分を戒める言葉を何か一つ持ってみてはいかがでしょうか。

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