- 西川芳彦
- 滋賀県大津市生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)を卒業後、株式会社ニチモウフーズに入社。日本流通技術研究所、株式会社東京ゼネラルコンサルティングを経て、1994年に独立。97年に株式会社メディカルプラザを設立。動物病院業界で開業支援事業や第三者承継事業を展開してきた。2021年10月からは人材紹介事業も開始。
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水産会社の営業マンから、動物病院を対象とした開業支援を行う会社の設立へ。新しい挑戦は、成功するかどうか分からないからおもしろさを感じます。目の前で必要とされていると感じることに挑み、懸命に取り組んでみる。年齢を重ねた今も、変わらない私のポリシーです。
滋賀県大津市で生まれ育ち、東京水産大学(現東京海洋大学)へ。学生時代には水産庁の非常勤職員として南氷洋の調査船で4カ月働き、その後は3カ月間の北米自転車旅もしました。まだ海外に行く日本人が少なかった時代に、異文化に触れることで「道が開ける」感覚を味わったのです。卒業後は水産会社に就職しました。当時は当たり前だった、残業続きのハードな仕事をこなしていましたが、漠然と「このまま一生営業マンでいいのか」と思っていたところ、あるコンサルタントに出会いました。その方はとにかく信念を持ってお仕事をされている方で、私も経営コンサルの仕事に魅力を感じるようになりました。弟子入りを志願したところ、「中小企業診断士の資格を取得したら考えてみてもいい」と提案されたのです。挑戦したところ、1年半で合格。コンサルティング会社に転職しました。
2社のコンサルティング会社で働き1994年に独立をしました。仕事の中で動物病院に携わる機会があったことから、獣医師向けの開業セミナーやマネジメントセミナーを始めました。しかし、これからはマネジメントが求められると思ってのことだったのですが、獣医師が関心を持つのは臨床で、お金を払ってまでマネジメントを学ぼうという人は少なかったです。
ある時、開業支援の仕事が業界紙に取り上げられ、1999年に米国の対談企画に出ることになりました。現地の動物病院を見学した際に知ったのは、米国の事業継承のあり方です。中小企業の社長業を引退する際の選択肢は「承継」「廃業」「上場」の3つがあり、日本では廃業や承継がメインです。承継には子や親族に引き継ぐ「親族承継」と従業員に継がせる「従業員承継」があり、日本では主に親族承継が行われてきました。しかし、米国ではそのどちらでもない第三者に引き継ぐ「第三者承継」がメインだったのです。第三者承継なら廃業を選ばなくて済む。日本の動物病院業界にも広めたいと考えました。
M&Aは半数以上が失敗すると言われています。この「失敗」は、M&A前後で売り上げが減ったことを指したものです。しかし、私が13年ほど前から始めた動物病院の第三者承継では、ほぼ失敗がありません。その理由は承継のタイミングにあると自負しています。一般企業の多くは、業績不振になってから承継を考え始めます。一方、動物病院には業績が良い状態で手放したい理由があるのです。その理由は、獣医という仕事のハードさ。人間の個人病院では入院はほぼなく、重い症状の患者は総合病院に送るため、緊急対応する機会はそうありません。しかし、動物病院には総合病院がないため、夜間を含めた緊急対応、手術など、繁盛している病院ほど激務になりがちという構造があります。おまけに、人手を増やそうにも人材不足。「業績がいい間に誰かに引継ぎ、早めに引退したい」という獣医師ならではのニーズがあるのです。一方、新規開業したい若い獣医にとっては、人員や医療機器がそろった状態で始められるため、開業リスクを減らせる利点があります。動物病院の第三者承継は、双方にメリットがあるのです。そして、2021年10月から新たに動物病院の人材紹介事業も始めました。果たして順調に成長するのかは分かりません。ただ、獣医師の人材不足で困っている動物病院の院長がたくさんいることを知っていた。だから挑戦しようと思ったのです。
私が事業をする上で大切にしているのは、内村鑑三の「天職を発見する方法は、今日、目前の義務を忠実に守ることであります。されば、神はだんだんとわれら各自を、神の定めたまいし天職に導きたまいます」という言葉です。儲かりそうだから、大成しそうだからという理由ではなく、「必要としている人がいるだろう」と強く思ったから新たな事業に挑戦する。その繰り返しが世の中を改善させているのだろうと思います。
日本は起業する人が少ない国です。私は、もっと挑戦する若い人が増えたらいいと思っています。リスクはありますし、経営者のプロを目指すのであれば、ハードに働く経験も必要です。それが仕事を続ける基礎体力となり、簡単にはへこたれないタフさにつながっていくでしょう。今、日本は歴史的転換期にあります。明治維新や戦後に若者たちが日本を変えていったように、若い人たちの行動は将来の日本にとって重要でしょう。若い人への支援は投資です。これからも若い獣医師に開業のチャンスを与えることに尽力していきたいですね。