- 西嶋裕二
- 1973年北海道生まれ。99年、ソフトフロントホールディングスに入社。コネクトテクノロジーズ(現:ジー・スリーホールディングス)を経て、2011年インプルを設立し、代表取締役CEO就任。22年8月に北海道モバイルコンテンツ・ビジネス協議会会長就任。
- http://www.impl.co.jp
メカ好きの父が買ったパソコンが自宅にあって、子供のころからそれをいじっていました。まだインターネットはなく、パソコン雑誌に載っているプログラムのソースコードをひたすら打ち込んでゲームを作って遊んでいました。今思えばこれがプログラマーとしての原体験だったかもしれません。
2000年前後はITベンチャーが次々に台頭したITバブルの時代で、特に札幌市にはIT企業が集中し「サッポロバレー」と呼ばれていました。そのころに大学を中退し札幌市の実家に戻ってきた私はVoIPのベンチャー企業でテストのアルバイトを始めました。当面のつなぎのつもりでしたが、思いのほか仕事が面白く、そのまま社員にしてもらいました。
プログラマーとして働く中でただ目の前の作業をこなせばいいのではなく、仲間やクライアントとのコミュニケーションをとることの大切さを痛感しました。また、数多い工程の中で序盤の要件定義や設計をいかに緻密にできるかが成功のカギだということも学びました。その工程での詰めが甘ければ後の工程で綻びが出て、最悪の場合ゼロからやり直しということもありました。締め切り前の嵐のような忙しさも、完成した時の達成感も、納品して何カ月もたってから不具合が発覚した時の胃の痛むような思いも、この仕事ならではの経験だと思います。大変なことも多いのですが、仲間が一丸となって世の中を変えていくような気概を感じられるベンチャー企業の雰囲気をどんどん好きになりました。
40歳近くまでITベンチャーを4社渡り歩きました。4社目が業績不振でリストラされた時、別の勤務先を探すか起業するか悩んだ末、法人向けのソフトウエア開発の会社を札幌市内に立ち上げました。フレックスタイム制や自由な服装、社員全員がお互いを役職名ではなく「さん」付けで呼ぶことなど、これまで働いていたITベンチャー企業の自由でフラットな雰囲気を自分の会社にも取り入れました。私も社長室にこもるのではなく社員たちと同じ空間にデスクを並べて一緒に仕事をしています。また皆私のことを「西嶋さん」と呼んでいます。最初の何年かは自分の会社が潰れないようにするだけで精一杯でした。しかし同じ札幌の経営者と話す機会を持つ中で自分もサッポロバレーに育てられた一員だと意識するようになりました。自分の会社はもちろん、北海道の他の企業やIT産業全体を盛り上げることで、かつての「サッポロバレー」の勢いをもう一度復活させたいと考えるようになりました。
札幌は魅力的な街ですが、ビジネスの展開という点では規模はそれほど大きくはありません。ビジネスの面で札幌をより魅力ある街にしていくには、今ある会社が成長し「ここでビジネスをやりたい」と思う企業を増やすことが重要と考えています。また、それは「地元に残って働きたいが、働きたいと思える会社に出会えない」と思っている優秀な学生に、札幌に残ってもらうことにもつながると思います。だから、私たちも札幌発のIT企業として全国、グローバルで認知される会社に成長させたいです。そのための通過点として、現在は、上場を目指し準備を進めています。上場することで社会的な信頼度も上がり、優秀な人材を獲得できるようになれば、さらに成長できるはずです。私たちが手掛けるスマホアプリ開発はIT業界の中では小さな市場ですが、その中でトップになり「スマホアプリと言えばインプル」というイメージを定着させたいと考えています。
今、私を含めた役員は、3人とも常にチャレンジングなマインドを持って仕事をしています。会社が生き残るためには常に成長を続け、前に進み続けなければいけないと思っています。現状維持のつもりでは、時代の流れに乗り損ねて後退していくばかりです。新しいことにチャレンジする姿を常に社内外に発信することにより「この会社は面白いことをしている」「勢いがある」というアクティブな会社のイメージを持ってもらうことが重要だと考えています。ここまで役員3人で会社を引っ張ってきましたが、社員が100人を超え、全社員が同じ方向を向いて走ることの難しさを感じています。現在の課題は、一緒に引っ張ってくれるマネジメントのできる人材を育てることであり、社外からそのための人材を連れてくることも含めて今後力を入れていきたいです。
素晴らしいアイデアを思いついたとしても、実践しなければ意味がありません。ささいなことでもいいので、とにかく行動に移すことです。たとえ失敗したとしても、いつまでも立ち止まり、くよくよ悩んだりせずに、すぐに次の行動を起こすことで現状を打破することができます。若者のみなさんも、まず行動してみてください。きっと「動いて良かった」と思えるはずです。