高校生までは福岡や熊本で過ごしましたが、東京の大学を目指していたので浪人を機に上京しました。住んでいたアパートの近くにモスバーガーがあり、初めて食べた時「うまい」と思わず声を上げたのを覚えています。すっかり気に入り、大学生になってからも足しげく通いました。店員も私のことを覚えてくれて、いつ行ってもフレンドリーに接してくれました。

当時は弁護士になりたいと思っていました。どうにか法学部に入ることはできたものの、司法試験に失敗してしまいました。大学卒業後も勉強を続けていましたが、そろそろ定職に就かないとまずいなと考えていた時に、知人がモスフードサービスの社員であることを知りました。その知人は熱心に誘ってくれましたし、なじみのあるモスで働いてみたい気持ちはありましたが、コネ入社は嫌だったので、伝手（つて）を頼らず一般の面接試験を受けて法務部門で採用されました。入社したばかりのころ、社長の講話を聴く機会がありました。「社会人になっても夢を追っていい」という内容でした。そのころ私はまだ弁護士の夢を諦めきれずにいたので、司法試験に再挑戦するつもりでした。残業をしなくてもいいように人一倍働き、夜は勉強の時間を確保しようと思っていましたが、定時で上がろうとすると周囲からは「新人のくせに」という冷ややかな視線を感じます。そのことをリポートに書くと、後日社長が直々に私に声を掛けてくれました。柔和な印象のある社長でしたが、その時かけてくださった言葉には、相手が本気かどうかを見透かすような鋭さがありました。

課長に昇進した時、社長から「アントレプレナーシップ（起業家精神）を持って仕事をしてほしい」と告げられました。主体的に考え、責任を持って意思決定をするということです。法務の知識には自信がありました。しかしせっかく管理職にしてもらえたのだから経営を学ばなければだめだと思い、夜間に大学院で勉強しました。社長に修了証を見せると自分のことのように喜んでくれたことが今でも忘れられません。しかしその3カ月後、社長は病気で急逝しました。