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仲垣友博
1976年生まれ、福井県出身。大学中退後、靴メーカーで働く中でデザインとレザークラフトに開眼。2006年、オーダーメイドの靴や鞄、革小物を製作する工房「ameno spazio」を設立。09年、オリジナルブランド『yuhaku』を始動。同時に、ユハクとして改名。グラデーションを用いて絵を描くように染色する手法が特徴。
https://www.yuhaku.jp/
※本サイトに掲載している情報は2022年11月 取材時点のものです。

INTERVIEW

元来何でも一人でやってしまうタイプで、みんながやらないことも率先してやるようにしています。リーダーがその姿勢を見せることで、社員たちも動いてくれるようになります。「想像し創造する」ということを理念として掲げていますが、これはものづくりだけではなく、相手がどう考えているかを汲みとって行動するという意味でもあります。ものづくりも結局、人に喜んでもらったり「いいな」と思ってもらったりするためのものです。技術だけではなく、心くばりが必要です。

海や夕日のグラデーションを手染めで表現

仲垣友博

靴メーカーの店員として働いていた時、絵を描けることからデザインや商品企画に挑戦させてもらえるようになりました。革屋を訪ね、加工前の革に触れた瞬間その質感に魅了され「私も革で何か作ってみたい」と思ったのがyuhakuの原点です。デザインから染色、縫製、経営まで、すべて独学で習得してきました。海や夕陽などの自然の風景のように移り変わる色を手染めで表現する技法を編み出し、今も創業時と変わらず1点1点手作業で仕上げています。会社は少しずつ大きくなり、技術をマニュアル化したことで職人も育ってきて、全国の大手百貨店でも製品を扱ってもらえるようになりました。

3年前、新型コロナウイルス禍によるパンデミックで世の中の流れは大きく変わり始めました。もちろんピンチに違いないのですが、あまりネガティブに考えることはありませんでした。今までもピンチは何度かあって、東日本大震災の時には唯一の卸先を失い、苦境に追い込まれました。しかし今は複数の販路も持っていますし頼もしい仲間もいます。みんなで力を合わせればこの状況もプラスに変えられるだろうと前向きに考えていました。

感染拡大が始まった年の暮れに、銀座に直営店をオープンしました。先行きの見えない時に新店舗を構えるなんてと驚かれましたが、いい物件に出会えたのは、このタイミングだったからかもしれません。今まで売り上げの半分を占めていた百貨店では長期の休館や来客の減少で売り上げは大きく落ちましたが、銀座店のおかげで売上高は減っても利益率でカバーすることができました。銀座店には若い方を中心に多くのお客様の来店があります。店内はアートをテーマに、クリエーターとのコラボアイテムを販売し、アート作品の展示スペースも設けました。私も若い頃に絵の個展を開くのが夢でしたが敷居が高く断念したので、若いクリエーターたちに活躍の場を提供したいと考えたのです。クリエーターの作品が銀座店で多くの方の目に留まり、また、クリエーターのファンがyuhakuの革製品を知るきっかけにもなればと思っています。

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新型コロナウイルス禍だからこそ、攻めの姿勢で

社内の生産体制も強化しました。外部に委託していた縫製を自社でできるよう、専属の縫製職人を迎えたことで、1点ものや限定品など、必要な製品を必要な分だけ小ロットでも生産できる体制が整いました。この際だからと染色アトリエを一新した時はさすがに周囲から心配されましたが、新型コロナウイルス禍だからこそ、守りに入るのではなく攻めに転じました。自粛期間中は社員たちと顔を合わせることもままならなかったので、動画を配信し、私の考えや今後のビジョンを社員たちに伝えるようにしました。社員たちが「マニュアル通りに仕事をするよりも、ちゃんと社長の言葉から汲みとりたい」と言ってくれたことはありがたかったです。社員たちも作業の手を止めて私の話を聞くのではなく、自宅で余裕のある時に動画を再生できる点もかえって良かったようです。撮影も編集も一人でするので手間は掛かるのですが、リーダーの思いを浸透させるのは大切なことなので、今も月に一度の配信を欠かしません。

何十年も革を扱っている職人さんが、私たちの手染めの技法を見て「革命的だ」とほめてくださったことがあります。おこがましいかもしれませんが、自分でも世界一の革づくりができているのではないかと思います。これから職人たちと一緒にさらに発展させ、日本の誇りとなるような文化に育て上げていきたいです。日本の革製品としてユハクの名前が世界中に知られるようになることが夢です。

思うようにいかない時もありますが、失敗は後退ではありません。一歩一歩着実に進むことが大切です。「できない」「自分には無理」と決めつけるのが一番良くありません。「不可能」の壁を作ってしまうのは自分自身です。これからの時代のみなさんには、「絶対にできる」という気持ちで物事に取り組んでほしいと思います。小さなハードルから挑戦し、徐々に大きな壁を乗り越える成功体験を積み重ねることで、いつしか素晴らしい景色が待っています。

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