- 長田國昭
- 1945年、熊本県天草郡都呂々(トロロ)で生まれ、長崎の原爆による放射能をあびた。高校卒業後、家業の木材業(炭鉱へ坑木納入)跡継ぎのはずが国策により炭鉱が閉山により上京。日産ディーゼルユニット課に入社。3年後家業のため一時帰省し、再度上京。電子光学(ストロボ)からサンライズ産業へ。2015年70歳にて起業。現在は大手学校(校内9400名)のメンテナンスを中心にカーペットクリーニング等の事業を行う。
- https://sunrise-f.co.jp/
今の会社は、私が70歳の時に立ち上げました。本来ならそろそろのんびりしようかという頃ですが、起業して良かったと思います。うちには20~80代まで幅広い年齢層の清掃スタッフたちがいますが、ありがたいことに離職率が低く、みんな長く働いてくれています。私はあまり細かいことは言いません。スタッフを信じて任せたほうが、しっかり責任をもって働いてくれます。特に今の若い人はみんな賢いので、私が言わずとも自主的に動いてくれます。どのスタッフも、現場がきれいになっていく過程を楽しんでくれているのがうれしいですね。
終戦を迎える年に天草で生まれました。実家は木材業を営んでおり、炭鉱に坑木を納入していました。忙しい時には私や弟が駆り出されたものです。いずれ後継ぎになるつもりでいましたが、私が高校生の頃に国の方針で炭鉱が閉鎖することが決まり、家業を畳むことになりました。町の灯が一気に消えたように見えたのを覚えています。上京して自動車メーカーの検査課で4年、カメラのストロボメーカーの工場で8年働きました。途中、ストロボメーカーが大手カメラメーカーに吸収合併され、秋田の工場に来てほしいと誘われました。大抜てきだと喜んだのも束の間、人手不足で心身ともに疲弊し、秋田の寒さにも参りました。ものづくりは好きだったのですが、ついに音を上げてしばらく休ませてほしいと申し出ました。
自宅のある東京へ向かう機内で隣の席の男性と話をしていると、互いに蒲田に拠点があることが分かり、意気投合しました。男性は清掃業の会社を営み、敷地面積11万平米の学校のメンテナンスを請け負っていると言います。後日連絡があり、休職期間中だけでいいから少し仕事を手伝ってほしいと頼み込まれました。作業現場を客観的に見てほしいというのです。私は掃除に関してまったくの素人です。だからこそ先入観なく見ることができると踏んだのでしょう。実際に現場を見て、床の磨き方に改善の余地があると感じました。根拠はなく、直感です。現場のスタッフたちは「お前に何が分かる」と言わんばかりに反論しました。私も素人なりにポリッシャーの使い方を研究し、実践して見せました。質の良いワックスを使った仕上がりを見て「確かにこれはいい」と賛同してくれたスタッフもいましたが、相容れず辞めてしまった人もいました。
社長がなぜ飛行機で偶然出会っただけの私にこんなことを頼んだのか、いまだに分かりません。でも相性はとても良く、「阿吽の呼吸でいきましょう」と言って信頼してくれました。ありがたかったです。ほどなく秋田の工場を引き上げ、こちらを本職にしました。
社長が亡くなって2年後、私が事業とスタッフを預かり、新たに会社を立ち上げました。やるからには引き継ぐよりも自分で一からやってみたいと思ったのです。おかげで自分の裁量で予算を組めましたし、スタッフたちを守ることもできました。
現在、契約を結んでいる学校法人とは初代社長の頃から数えると40年のお付き合いになります。最初はなかなか見違えるほどの効果が出ませんでしたが、高濃度樹脂ワックスを使用するようになって仕上がりは格段に美しくなり、ワックスが保護膜の役割も果たすので汚れもつきにくくなりました。清潔を保っていると、学生さんたちもきれいに使ってくれるようになり、今では来校者や講師の方にきれいな校舎だとほめていただくことも増えました。ワックスがけもカーペットのクリーニングも外注せずすべて自社で手がけているのが私たちの強みです。コロナ禍でも除菌や抗菌の重要性を訴え、仕事を切らすことがありませんでした。ここまで借金ゼロ経営ができているのはありがたいことです。今後は学校のほかにもオフィスビルや商業施設などの現場を増やし、私たちの技術やノウハウを広く生かすことができればと考えています。従業員たちにポストを与え、給料も上げてあげたい。そのためにできることはまだあるはずです。私自身、仕事にも家族にも恵まれ幸せな人生を過ごしてきました。だから従業員たちにもできるだけのことをしてあげたいのです。
私が青春時代を過ごしたのは1960~70年代頃で、今のように便利な時代ではありませんでしたが、若者たちの瞳には熱が宿り、ギラギラした輝きがありました。ベトナム戦争があった頃で、世の中や社会への関心も高かったように思います。今の若い子たちはスマホの画面に夢中でかつてのような若者特有の活気が乏しく、少し寂しく感じます。だからと言って今の若者がダメだとは思いません。スタッフにも20代の子がたくさんいますが、仕事への取り組み方は本当に素晴らしいです。頑張っている若者がたくさんいることは知っています。心から応援しています。
Loading...