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村井博之
1961年生まれ、東京都出身。立教大学文学部を卒業後、中国国立北京師範大学に留学。帰国後、キヤノンに就職し中国の支店開設などに携わる。日本エアシステム(現日本航空)香港現地法人代表などを経て、07年、バロックジャパンリミテッド代表取締役会長に就任。
https://www.baroque-global.com/jp
※本サイトに掲載している情報は2017年6月 取材時点のものです。

INTERVIEW

日本の人事評価は総じて減点主義です。失敗をすると評価が下がってしまうというのはいかがなものでしょうか。私は失敗を恐れずにチャレンジした人を評価したいですし、失敗した人にこそもう一度チャンスを与えたいですね。うちには販売員からのたたき上げで20代で執行役員になった社員もいます。社員にとって金銭的な対価だけではなく、正当に評価され、この会社で働いてよかったと思えるような精神的な対価が必要だと思うのです。企業は経営者やマネジメントチームだけで良くなるものではありません。全員参加型の企業を作っていくことが経営者の命題だと思っています。

価値観を大きく揺るがした中国留学

村井博之

大学生の時、父の勧めで中国に留学することになりました。国交が回復したばかりの日中間には友好的なブームがありましたが、個人的には中国に関心がなかったんですよね。本当はアメリカかイギリスに留学したかったんです。実際、中国へ渡ると別の時代に来てしまったようなショックを受けました。インフラもまだ整っていなくて、学生は紙や筆記用具もまともに調達できず、夜は街灯の下で勉強するんです。日本がどれだけ恵まれているか痛感しました。

当時の日本人は、自分たちより豊かな欧米にしか目を向けていなかったんですよね。日本のように物質的に恵まれた生活をしていると何が大事で何が不要なのか分からなくなりますが、中国での生活に慣れるとそれが明確になりました。それまでの人生で積み上げてきた価値観が大きく揺らぎましたね。

帰国後はキヤノンや日本エアシステムで仕事をして中国への進出に携わりました。ある時、中国駐在中に知り合った日本人の知人が渋谷のファッションビル109でマウジーというブランドを展開していると聞きつけました。立ち寄ってみると店舗は大盛況。店頭に並ぶ商品はどれも販売員経験者が自分たちの着たいと思う服を自ら作ったというのです。売り手、消費者の目線で商品を作り、スピーディーに売り場に出しお客様の反応を見て改善を加えていく。ビジネスの知識があるわけでもないのに、理想のマーケティングをしていたことに驚きましたね。そして、小規模ながら社員一人ひとりが会社の利益を生む大きな力になっているこの会社こそ企業の理想形だと思ったんです。取り立ててファッションに興味があったわけではありませんが、この組織と仕組みにすっかり心をつかまれて、経営に参画させてもらいました。磨けばさらに魅力的な企業になると確信したのです。

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ファストファッションブランドのローンチ、そして海外へ

109はいわゆるギャルファッションの殿堂で常に若い女性でにぎわっていましたが、発展が早いと飽きられるのもまた早いものです。「マルキュービジネス」に依存することに危機感を持ち、次の一手を考えていたところ、出張先のニューヨークで思わぬヒントを見出しました。ニューヨークではリーマン・ショックの引き金となったサブプライムローン問題に直面し消費形態が大きく変わろうとしていたのです。閑散とした5番街を見て、近いうちに日本にも影響が出るなと思いましたね。マルキューブランドは決して安価ではありません。日本で1万円を超えるジーンズが売れる時代はそう続かないと感じました。

私は東京に戻ると、「マウジーをファストファッション化しよう」と社員たちに話しました。ところが賛成してくれる人がいません。アパレル業界の知識や経験がない私はいつも社員たちの意見を尊重してきましたが、初めて自分の考えを断行することにしました。大企業で埋もれるよりも小さな会社で活躍したいという気概を持った仲間たちが外部からも集まってくれて、マウジーよりも低価格な姉妹ブランド「アズールバイマウジー」の立ち上げに成功したのです。私の読み通り、リーマン・ショックによる不況の波は日本にも影響を及ぼしました。ZARAやH&Mのような海外のファストファッションブランドも本格的に進出してきましたが、アズールはそれより先にスタートを切っていたので、国内ではリードを守ることができました。今ではファストファッションがわが社のビジネスの半分を占めています。

日本のアパレルマーケットはこの20年で20兆円から9兆円に縮小しています。今後は、日本以外のマーケットをどのように拡大していくかということが課題ですね。特に、47兆円の市場を持つ中国での事業拡大に注力していきたいと思っています。幸い、中国は私にとって学生時代からなじみのある国なので、日本でビジネスをするのと感覚的にはかわりませんから。既に200店舗以上を展開し、売上利益共に順調に成長しています。今後は通販事業の本格化などにより更なる成長を目指します。

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