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三井桂子
経営者の家系に生まれ海外生活を経験後、22歳で結婚。ハワイで子育てに勤しむ。そこで妊娠出産に伴い多くの女性が患う病気と出会い、その治療法も限られていることから医療機器の開発に着手、2006年医療機器製造販売会社を設立。女性ならではの製品開発、製造、販売を手掛けている。21年から商工組合日本医療機器協会理事を歴任。
https://urogyne.jp/
※本サイトに掲載している情報は2022年5月 取材時点のものです。

INTERVIEW

ものづくりをする時、「ここはどんな構造にしよう」「どんな素材なら安全に快適に使えるだろう」と一つひとつのことで何年も悩み、試行錯誤を繰り返します。気の遠くなるような作業ですが、失敗するのではないかという不安な気持ちでいると、悪い方向に引っ張られてしまうものです。失敗を恐れず、限界を作らず、とにかく前に進むことをいつも意識しています。前向きに取り組んでいれば、時間がかかっても必ず道が開けると信じています。

息子の命を救ってくれた現代医療に恩返しがしたくて

三井桂子

好奇心旺盛で、ままごとよりも走り回るのが好きなやんちゃな子どもでした。父は鉱山業の商売をしていてブラジルと日本を行き来しながら忙しく働いていました。私には跡取りになることを期待していたようです。父のことは尊敬していましたが、私は跡継ぎよりも自分の力で何かをしたいと思っていました。22歳で結婚する時、父には「もう少し社会で経験を積んでからでもいいんじゃないか」と言われましたが、私は早く子供を産んでじっくり仕事に専念したかったのです。夫と一緒にハワイで生活し、3人の子どもを育てました。

未熟児で生まれた三男は肺炎を患い一時は命が危ぶまれましたが、現代医療の力で救われました。それがきっかけで、病院の新生児室でボランティアをしたり、ハワイで出産する日本人の通訳をしたりして少しずつ医療とのかかわりを持つようになりました。子どもの頃から「受けたご恩は必ず返しなさい」と両親に言われて育ったので、自然なことでした。

また、3度の出産を経験したことで骨盤底筋のケアに意識を向けるようになりました。骨盤底筋は周辺臓器をハンモック状に支え、排せつにも重要な役割があるのですが、妊娠出産でダメージを受けやすく、放っておくと尿漏れや骨盤臓器脱などのトラブルを引き起こすことがあります。特に骨盤臓器脱は子宮、膀胱、直腸などの臓器が体外に脱出してしまう病気で、命にかかわることはないものの、一度かかると自然治癒はせず、下腹部の違和感や出血、歩行困難などで通常の生活を送ることが難しくなってしまいます。女性の3人に1人が罹患するというデータがあるぐらい身近な病気です。私がこの病気を知った頃はまだインターネットの情報も少なく、誰にも言えずに一人で悩みを抱える人がたくさんいたはずです。同じ経産婦として何かできることはないだろうかと考え、臓器が落ちてこないように下から物理的に支える下着型の医療機器を作ってみることにしました。骨盤臓器脱で悩む40人の女性に参加してもらい、一人ひとりに手作りで作って渡しました。

  • 三井桂子
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大企業が参入しないニッチな分野に切り込む

収益のことは頭になく、目の前にいる人たちのつらさを解消するために、妥協のないものづくりをしようという思いだけでした。最初は「素材が硬すぎて痛い」とか「柔らかすぎて抑える力が弱い」といったお声が噴出しました。その度に、何度も改良を重ねました。長い道のりでしたが、多くの方が期待を寄せてくれていることが伝わってきたから頑張ることができました。最終的に、シリコンとクッション材を使った三層構造の器具と、それを固定するパンツ型のサポーターを完成させました。医療機器というと専門的で無機質なイメージがありますが、女性の視線を大切に、普通の下着と変わらない自然な見た目、心地よい肌触り、説明書の分かりやすさなど、患者さんに優しい医療機器を目指しました。

より多くの女性に使ってほしいと思った時に、マーケットがなかったので一から市場開拓をしなければいけませんでした。まず、婦人科や泌尿器科の先生方に機器を知っていただくところから始め、一般の方への骨盤臓器脱の啓発活動にも取り組みました。そんな草の根活動が、ようやく実を結び始めたことを実感しています。わらをもつかむ思いでこの機器をご購入いただいた方から、「普通の生活を取り戻すことができました」「おかげで助かりました」とお礼の言葉をいただくことが、私たちにとっても何よりのモチベーションにつながっています。

世界には、女性の健康が後回しにされているような地域がたくさんあります。特に発展途上国ではお産の状況が悪く、骨盤臓器脱で苦しむ女性が後を絶ちません。そうした方々への支援のために、発展途上国にこの製品を寄付する活動に取り組んでいます。また、妊娠出産でダメージを受けた骨盤底筋をサポートし、尿漏れや骨盤臓器脱を未然に防ぐための下着も新たに開発中です。大企業は市場があればどんどん参入していいものを作りますが、このようなニッチな分野には参入しないため、取り残される人が出てしまいます。小さな会社だからこそニッチな分野に切り込み、悩みを持つ方に一人でも多くお助けできたらうれしいです。

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