profile
三橋馨
1971年東京都出身、埼玉県育ち。都内の看護学校を卒業後、大学病院やがん専門病院などの病院勤務を経て、製薬会社のCSR事業に従事。その後、訪問看護ステーションの管理者を務める。2011年にステラ設立。翌年、訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所を開設し、事業所の所長、訪問看護の管理者、会社の代表取締役を兼任。その後大学院へ進学し、ヘルスケアMBAを取得。現在は某大学にて地域指導教授も務める。
https://www.stella-kudan.com/
※本サイトに掲載している情報は2023年4月 取材時点のものです。

INTERVIEW

会社名の「ステラ」は、イタリア語で星を意味するstellaから名付けました。イエス・キリストが生まれたとき、星が東方の三博士たちを導く道しるべになったという話があります。自宅療養をする人たちはこの先どうしたらいいのか分からず不安になるので、道しるべが必要だと思うのです。私たちは太陽でも月でもなく、ほんの小さな星ですが、利用者の在宅生活を導く道しるべの星になりたいと思っています。利用者の家族は「訪問看護はうちのインフラだ」と言ってくれます。そこまで頼りにしてもらえて、うれしいです。

安心の自宅療養をサポート

三橋馨

当社は訪問看護サービスと居宅介護支援をしていて、「九段訪問看護ステーション」「九段ケアセンター」二つの事業所を持っています。メインの訪問看護では24時間365日安心して自宅療養できるようサポートしていて、看護師、理学療法士、作業療法士、ケアマネージャーが利用者の自宅を訪問して医療的な観点からケアをしています。事務所がある九段は東京23区で最も人口が少ない千代田区にあり、区内をまんべんなくケアできることが強みです。現在は120人ほどの利用者がいますが、都心部という土地柄のためか、3分の1は一人暮らしの高齢者です。

医療の道を志したのは、小学校3年生のときに父が急性心不全で他界したことがきっかけです。父のいない悲しさと寂しさを感じる中で「人を助けられる人になりたい」と考えるようになり、自然と看護師を目指していました。早く看護師として働きたいと思い、衛生看護科のある高校を探して進学し、20歳で大学病院に就職しました。当時は患者さんの求めていることに応えたいあまり、一人ひとりの話をじっくり聞きすぎて、先輩から「いつまでやっているの」と怒られたものです。10年ほど勤めたのち製薬会社のCSR事業部に転職し、一般の顧客の相談に乗るうちに訪問看護の存在を再認識しました。その後知人から声をかけられ、今度は訪問看護ステーションの雇われ所長として働きました。しかし医療のことを知らない経営側と現場のギャップに思うところがあり、自分の望む在宅看護を実現させるため独立を決意しました。

起業にあたり法人格が必要だったので「株式会社」にしましたが、当時は営利を追求するつもりはありませんでした。しかし、いざ経営をはじめたり大学院でヘルスケアMBAを学んだりするうちに、医療法人でも利益を追求しなくてはならないことを痛感しました。利益がないと十分な人員を抱えられず、利用者に十分なケアや笑顔を届けられないからです。起業当初は事業を大きくしてスタッフをたくさん雇いたいと思っていましたが、徐々に考えが変わっていきました。今は地域密着型で安定した経営を続けて、地元の人たちに大きな安心と笑顔を届けられる存在になりたいと思っています。

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利用者の意志に寄り添う

最も大切にしているのは、利用者の望む生き方と死に方を全力でサポートすることです。健康なときには考えもしませんが、病気になったり障害を持ったりすると、この先どう生きていこうか、どのような最期を迎えたいか、それぞれに考えを持つものです。病院ではなく自宅で死にたいという人もいますし、家族は「一分一秒でも長く心臓が動いていてほしい」と望んでいても、本人は延命措置を望んでいないこともあります。私たちは本人が命の長さよりも優先させたいことや大切にしたいことをしっかりと受け止め、それらを尊重しています。例えば、酸素吸入をしている人がたばこを吸いたいなら、もちろんそれもOKにします。ただし「酸素に引火すると危ないので酸素器から離れて吸いましょう。本数も半分にしましょうか」とアドバイスするなど、安全に楽しめる配慮は欠かしません。

私たちは病院や施設とは異なり、利用者の自宅でそれぞれケアをしているので、提供するケアの質を一定にするよう努めています。そのためにミーティングを毎日やっていますし、週1回の勉強会も開催しています。電子カルテやコミュニケーションアプリも活用していますが、顔を合わせることでより綿密に情報共有できていると感じています。直接会って話をすると、利用者の状況がより具体的に伝わりますし、仲間の顔を見られると自然と笑顔になれます。それぞれ離れて仕事をしていますが、おかげで心はいつも一致団結しています。

私の道しるべは「笑顔があるところ」です。仕事柄もありますが、やはり人の笑顔を見ると私も笑顔になれますから。よく「自分にはどんな仕事が合っているのか分からない」という悩みを耳にしますが、私も分からないままやっています。ただ「目の前の人が笑顔になってくれるとうれしい」という思いに従っていたら、いつの間にかここにいただけです。若者の皆さんも、仕事を決めるときは、どうすれば自分やまわりが笑顔になれるのか考えてみてください。それを探すために色々なことに挑戦していれば、道が見えてきます。正解なんてありませんから、あまり力まず、失敗を恐れずに挑戦してください。

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