- 松本匡浩
- 東海大学医学部卒業後、東京女子医科大学第二外科入局。立川中央病院外科部長などを経て2008年にまつもとクリニックを開院。内痔核四段階注射法を中心とした肛門疾患のほか、女性外来では乳がん検診や乳腺疾患の治療、更年期治療など女性の健康サポートに注力している。
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東海大学医学部卒業後、東京女子医科大学第二外科入局。立川中央病院外科部長などを経て2008年にまつもとクリニックを開院。内痔核四段階注射法を中心とした肛門疾患のほか、女性外来では乳がん検診や乳腺疾患の治療、更年期治療など女性の健康サポートに注力している。
父が内科の開業医だったので、休みでも何かあれば患者さんの元へ駆け付ける姿を見ながら育ちました。幼い頃は身体も小さく引っ込み思案で、医者に向いていないと学校の先生に言われたほど。それでも身体が大きくなってくると自信もわいてきて、いろんなことに積極的に挑戦するようになりました。高校進学と同時に地元の長野を出て上京し、寮に入る決断をしたのも大きな転機でしたね。新しい自分に変わるタイミングを自分で決められるかどうか。これはとても大事なことだと思います。医師になろうと本格的に考え始めたのもこの頃でした。
医学部に進み研修でいろんな科を回るうちに、考えるより先に行動するタイプの私には、行動力が求められて結果も早く出やすい外科が向いていると思い、外科医を志すようになりました。実際は思っていた以上にハードで、月に1、2回しか家に帰れないようなときもあり、これは選択を誤ったかなと思いましたね。
医師になって4年目、大分に出張した時のことです。腹痛を訴える患者様を診たところ腹膜炎かなと思ったのですが、部位がはっきりしません。上の先生に報告して指示を仰ぐと「状態はわかった。手術するかどうか、あなたが決めなさい」と告げられたのです。そんな重大な決断を自分ひとりで下すのは初めてでしたから、こわかったですよ。でも人の命を預かっている以上、逃げ出すわけにもいかない。さらに詳しい検査をすると膵臓(すいぞう)の炎症じゃないかと思ったんですね。腹膜炎なら開腹手術が必要ですが、膵臓ならその必要はありません。最終的に急性膵炎と判断すると、先生から「じゃあ手術はしなくていいんだな」と念を押されました。うなずくと先生は、「私もそう思う」と。その時に言われた「手術をするか否か判断するときの覚悟。それは外科医でいる限り絶対に必要なもの」という言葉を、私は深くかみ締めました。命を預かるというのは重く難しいことですが、同時に自分の手腕で患者さんの命を救えるかもしれない思うと、燃えるような気持ちもわいてきます。そして手術が終わって縫合が済むと、いつもホッとするのです。
開業する時は、自分は医学のこと以外は本当に何も知らないのだと分かってがくぜんとしましたね。医学のことだけを考えておけばよかった勤務医時代とは違い、開業医は医師であるのと同時に経営者でもあります。クリニックと従業員、患者様の命運を私が握っているわけですから、腹をくくるしかありませんでした。弱い部分や分からないことは専門の方をつかまえて何度も助けていただきました。
勤務医時代の入局先が救急、消化器内科、小児外科、乳腺外科を網羅する大きな病院だったので、そこで得た知識と経験を生かして幅広い世代や立場の人を支えたいという思いで開業したのですが、現在、うちに来られる患者様の8割が女性です。月経前症候群や更年期など、女性は月経周期やライフステージによって心身の状態が大きく変化するものだと痛感しています。私もまだ勉強中の分野ですが、知らなかったことを知るというのはいくつになっても楽しいものですね。一生懸命勉強して、その知識を患者様のために役立てることができれば、きっと患者様も「ここで診てもらってよかった」と思ってくださるはずです。
私が若い頃は今のようにマニュアルがなかったので、上司の手術を見て技術を盗むしかありませんでした。パワハラのようなこともありましたし、仕事を干されたことだってあります。でもその経験も後の医師人生に役に立っているんですよ。 今の若い人たちも思い通りにいかないことや、したくもない仕事をしなくてはならないときだってあるかもしれませんが、その経験は決して無駄ではありません。真摯に勉強を続ければ必ず人生は開けますので、どうか諦めずに頑張ってください。
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