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黒田章裕
1949年生まれ、大阪府出身。慶應義塾大学経済学部卒業後、72年コクヨに入社。77年取締役、その後常務取締役、専務取締役、副社長を経て、89年に代表取締役社長に就任。2015年会長となる。
https://www.kokuyo.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2016年8月 取材時点のものです。

INTERVIEW

コクヨの創業者である祖父は、幼い頃の私をよく工場へ連れて行ってくれました。紙製品を扱う工場なのに、床には紙くずひとつ落ちていないんです。従業員は何千人もいるのですが、 少しでも紙くずが出るとみんなすぐに拾って片付けるんですね。だから商品の隙間に紙くずが入って汚れることがないのだと祖父が話していたのが印象に残っています。 お客様に喜んでもらうために小さなことにもこだわる創業者の理念は不変のものです。その「コクヨイズム」は今も大勢の社員に浸透していると思います。

子供ながらに感じたコクヨのこだわり

黒田章裕

子供の頃は自宅に、「格外品」の印を押されたコクヨのノートが山積みになっていました。それを学校で使っていましたが何の不便もなく、どうして格外品なのか分からないんです。 当時社長だった父に聞くと、ノートの小口に刻まれた罫線の端が一直線にそろっていないからだと言います。そんなことでと驚きましたが、「ただ書ければいいわけではなく、 ノートを閉じた時に罫線が美しくそろっていることもお客様に喜んで使っていただくためには大事なことだ」と教えてくれました。子供ながら、会社のものづくりへのこだわりを感じたのを覚えています。 その頃からずっと「すごい会社だな、面白いな」と思っていたので、大学を卒業してコクヨに就職したのは自然なことでした。

最初に配属されたのはオフィス家具の販売部。私を含めて5人の小さな部署で、1年間とにかく雑用で奔走しました。販売部なのになぜ雨の日に駅までお客様を迎えに行ったり、 夜中に買い出しに行ったりしなければならないんだろうと不満もありましたが、上司には「無意味に思える雑用も誰かがやらないといけない。机や椅子を売らなくてもいいから、 君にはそういう仕事をやってほしい」と言われたんです。今思えば、コクヨの商品がお客様の手元に届くのは、こうした地味な雑用をこなしてくれる人が陰にいるからだ、 ということを知るために必要な経験だったんですよね。ありがたかったと思います。その後は資材部に入りオイルショックで調達が困難になっていた原紙を追い求め、またある時は会社と組合の折衝も経験しました。 28歳で取締役になるまで、その時々で大変な部署ばかり配属された気がしますが、振り返ってみるとどれも面白かったし勉強になったと思いますね。

社長就任のタイミングは突然訪れました。副社長に就任して2年目、前任の社長が急逝したのです。後継者だと告げられたこともありませんし何の準備も心構えもなかったので、戸惑いながらの社長就任でした。 最初の1年は何をしていたかよく覚えていないんです。やるべきことはそれなりにこなしていたと思うのですが、地に足がついていなかったですね。

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社長就任後は激動の時代だった

祖父は創業者ならではのカリスマ性がありましたし、父や先代もまた会社が急成長していく過程を見ていますからコクヨの歴史、強み弱みも知り尽くしています。 私はそのようなタイプではないので、なるべく多くの人の知見を生かしながら経営していこうと決めました。例えるなら編隊飛行型の経営です。 そのためにもネットワークを重視し、今のように携帯やインターネットが発達していませんでしたが、いち早くパソコンを導入して情報の共有化に注力しました。そうして会社全体で働き方が変わっていったことで、 お客様に対してモノを売るだけではなく、働く場で「ひらめき」や「はかどり」「心地よさ」を引き出すための空間をトータルで提供する、という今の形態につながったのではないかと思っています。

私が社長をしている間は激動の時代でしたね。OA化、IT化とともに文具事務用品の市場は縮小し、流通も大きく変わり、ピークの頃と比べると販売店も代理店も激減しました。 そんな中、通販サイト「カウネット」を立ち上げたり海外展開に踏み切ったりしながら、どうにか収益を落とすことなく次の世代にバトンタッチすることができたところです。

ここまでコクヨのブランドを守りながら業界のトップを維持できたのは、目まぐるしく変わる状況の中で私と一緒に必死で頑張ってくれた社員のおかげです。 私は一枚のCDがきっかけでクラシック音楽が大好きになり、何十年にもわたる楽しみになっています。 若い人たちも、これだけは好きだと思うことを見つけて、興味を持ってとことん突き詰めてみてほしいですね。何か一つでもいいので、そういう楽しみを持ち続けることが大事だと思います。 これからの日本でみなさんが活躍することを祈っています。

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