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金野志保
1963年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒後、91年第一東京弁護士会登録。(株)LIXIL社外取締役、マネックスグループ(株)社外取締役、(株)新生銀行社外監査役、警察大学校講師、内閣府男女共同参画推進連携会議委員、日弁連男女共同参画推進本部女性弁護士社外役員PT座長、など。
https://konnoshihohabataki.jp/
※本サイトに掲載している情報は2021年5月 取材時点のものです。

INTERVIEW

少子高齢化社会が進む中、もっと女性が社会で活躍しなければ、日本はどんどん衰退してしまうのではないか――。15年以上前、私が企業の外部監査役に抜てきされた頃から、そんな思いを持っていました。社会にはまだそのような機運はありませんでしたが、焦らなくても女性の活躍が求められる時代は近いうちに必ず来ると思って準備を続けてきました。チャンスが訪れた時に、すぐに手を挙げる勇気と、ためらわずに飛び込めるだけの日頃からの地道な鍛錬が大切だと思っています。

弁護士なら、家庭を持ちながら一生仕事ができる

金野志保

私の父も、かつて法律家の道を志したことがあったそうです。その話に影響を受けたせいか、「弁護士になって困っている人を助けたい」と小学校の卒業文集に書いたことを覚えています。中高生の時に改めて進路を考えましたが、女性が家庭を持ちながら一生仕事をしていくならやはり弁護士がいいのではないか、と考え、東大の文科一類、後に法学部に進学しました。当時、司法試験の合格率は2パーセント程度。かなり狭き門でしたので、試験に向けては頑張って勉強しました。もともと論理的に考えることは好きだったのですが、暗記が苦手だったので苦労しましたね。
司法試験に合格すると、当時熱心なリクルーティングを受けて裁判官や検察官の道も考えましたが、家庭や育児との両立も考え、やはり初志貫徹で弁護士の道を選択しました。結果的に、弁護士の仕事は私にとって天職だったと思っています。組織の論理に巻き込まれず、自分が正義だと思ったことを貫けることが良いですね。自分自身がボスなんです。自由業ですから路頭に迷うリスクもありますが、自分の人生を自分でデザインしていける魅力的な仕事だと思います。
その後結婚し、子どもを出産すると、自分の時間はほとんどなく、気分転換に飲みにも行くこともできません。仕事を続けているにもかかわらずこんなに社会と隔絶されるのか、と驚きました。当時、インターネットが家庭に普及し始めた頃だったので、ワーキングマザーのコミュニティーサイトにはまって、そこでワーキングマザー仲間と仕事や育児について意見交換をしながら息抜きをしていました。インターネットの法整備も利用者の意識もまだ未成熟な時代でしたので、そのサイトでも掲示板上の名誉棄損や著作権問題など様々なトラブルがあり、そういったトラブルを防止したいと思い、私はそのコミュニティーサイトで無償の顧問弁護士のような役割を買って出たのです。その役割を果たすため、私はインターネットの法律について様々な勉強会に出席して勉強していましたが、その勉強会に出会ったヤフーの関係者の方に社外監査役の就任を打診されました。人様のためにと思って地道に取り組んできたことがこのような形で実になったことは、うれしかったですね。

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企業が女性の能力を生かす手助けをしたい

ヤフーの監査役となったことから必要に迫られてコーポレート・ガバナンスを勉強していると、これからは女性の役員が求められる時代が来ると思いました。そこで、いくつかの団体に「女性役員候補者名簿を作りませんか」と声を掛けてみたのですが、思わしい反応がありませんでした。そこで、せめて自分だけでも、そういった時代が来たときに応えられるようにしよう、と考え、いつ役員として必要とされても困らないための基本的な知見を身に付けるための勉強を繰り返していました。ようやく女性役員の必要性が叫ばれるようになったのはその10年くらい後のことです。同じ頃に日弁連は内閣府から依頼を受け女性弁護士社外役員候補者名簿を作成することになり、私はようやく自分のやりたいことができる、と嬉々としてそのチームに参画することになりました。今ではそのチームの座長を務めています。
弁護士の仕事も社外役員の仕事も、自分がやりたいと思ってできるわけではありません。どちらも企業様やご依頼者様のご依頼がなければ携わることができません。そういう時に備え、準備を万全にしておくことの必要性を改めて感じました。準備が不十分では、せっかくチャンスが来ても、そのチャンスを受け止めることができません。
今、ようやくどの企業も女性の管理職を登用しようと動き始めていますが、必ずしもその候補者が十分でなく各社とも苦戦している状況です。これまでは、優秀な女性がいても登用してこなかった、女性の人材をうまく育てることができなかったツケがここになって来ているということです。そうであるならば、まず最初には女性社外役員等を招請し、どうやったら女性の能力を生かせるか、女性の活躍を推進する土壌を作るアドバイスを受ければいいと私は思います。私たち社外役員もそのつもりで社外役員を務めています。私達女性社外役員は、社内の女性たちが活躍できるよう、社内の女性たちの話をヒアリングし、それを経営陣にフィードバックし、他方で彼女らを励ます等もして、女性活躍推進のお手伝いをしております。社外役員の本来的に期待される業務ではないですが、広い意味での経営への助言として、中長期的な視野を持ってじっくり取り組んでいきたいと思います。

私はベンチャー企業の支援をライフワークの一つにしていますが、社会課題の解決を起業のモチベーションにしている若い方が多くて、立派だなあ、と感心することが多いです。
お金もうけをモチベーションにすると、どこかで行き詰まるように感じています。もちろん、事業なので利益も出さないといけないのですが、根底に社会課題を解決する意志があれば、必ず誰かが応援してくれます。人生も仕事も、自分ひとりでできることには限界があるので、必ず味方が必要です。そんな生き方をすれば、きっと後悔しない人生を歩めると思います。

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