- 小出伸一
- 1958年生まれ、福島県出身。大学卒業後、日本IBM、日本テレコムを経て、2007年、日本ヒューレットパッカード代表取締役社長に就任。14年から株式会社セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼CEOに就任。主にクラウドベースのCRMソリューションを提供。三菱UFJ銀行社外取締役、スペシャルオリンピックス日本の理事も務める。
- https://www.salesforce.com/jp/
私も若い頃はよく失敗をしました。失敗は悪いことのように捉えられがちですが、そうではありません。失敗と向き合い、原因を分析することで、次に何かにチャレンジする時に勝利の確率は格段に上がります。それを何度か繰り返すと自分の「勝利の方程式」のようなものが見えてきます。そうすると、次はこんなことにチャレンジしてみようとか、もっと高い目標を設定してみようといったプラスのスパイラルに入っていくことができるのです。たくさん失敗して、そこからたくさん学んで、それを次にどう生かすかが大切だと思います。
福島で自動車部品の卸業者を営む両親のもとに一人っ子として生まれ育ちました。近所にできたボーリング場に父と通いつめ、かなりストイックに練習して全国大会にも出場しました。
ボーリングも続けながら東京の大学に進学しました。大学では勉強よりも人間関係や世間を学びました。卒業後は家業を継ぐことも頭の片隅にありましたが、せっかく上京したのだからと思い、そのまま東京に残り日本IBMに就職しました。ちょうどパソコンが出始めた頃で、IT系の企業に魅力と可能性を感じたのです。
入社してすぐの研修ではエンジニアコースを選びましたが、途中で営業コースに移り、トップの成績で研修を終えました。ところが、いざ営業マンとして外に出るとまったく結果が出ず、3年ぐらいは低迷していました。その間、漫然と過ごしたわけではなく、多くのことを学びました。特に、お客様から「君は営業目線で物事を考えているね。お客様の目線に立って物事や製品を考えないと、お客様がその製品を使いたいとは思わないよ」と指摘されたことは、営業のやり方を見直すきっかけにもなりました。そのような試行錯誤の繰り返しで、自分のビジネススタイルが確立されていった気がします。
40歳でニューヨークに赴任し、当時のIBM会長兼CEOのルイス・ガースナー氏直下の戦略部門で働きました。多くの企業が、人にポジションを与えるために組織を用意して戦略を後付けするというやり方をしている中で、ガースナー氏は、まず戦略を立て、それを実行する組織を作り、適任者をリーダーに抜擢するという逆の手法を実践していました。彼の戦略や組織、リーダーシップの考え方には大きな影響を受けました。
私には50歳までに経営者になり55歳で引退するという人生プランがあり、49歳の時に日本ヒューレットパッカードの代表として迎え入れていただきました。そして、引退が見えてきた頃、懇意にしていた株式会社セールスフォース・ドットコムの創業者マーク・ベニオフ氏に「会長職としてうちに来ないか」と打診されたのです。
私は引退してのんびりしたかったわけではなく、日本のIT業界に貢献できるような活動をしたいと考えていました。株式会社セールスフォース・ドットコムはIT系のスタートアップ企業や若く優秀なエンジニアたちの活躍を後押しするような取り組みに注力していたので、共感を覚えて引き受けることにしました。
当初の株式会社セールスフォース・ドットコムは中途採用の社員が圧倒的に多く、バックグラウンドもみんなバラバラだったので、個人プレーに走りがちなところがありました。企業として、社員やパートナー、お客様、関わるすべての方を、家族のように信頼し敬意を払い、みんなで助け合う。そんな文化を醸成していくことを目指しました。
2016年には、「平等(イクオリティ)」を新たなコアバリューとして据えました。性別や国籍、所属などを超えてあらゆる立場の人が平等に認め合い、格差をなくそうという考え方です。私は日本IBMで「Women's Council」にリーダーの一人として参画していた時期に、女性ばかり2000人の会合でパネルディスカッションに登壇する機会をいただき、初めてマイノリティーの立場を経験しました。この経験がなければ本当の意味でマイノリティーを理解することはできなかったかもしれません。
企業が平等とかダイバーシティを声高に叫ぶだけでは何も変わりません。社員一人ひとりが平等という価値観に目覚め、文化に浸透させていくことが必要です。多様性を認め合い、異なった様々なものを融合させることで、大きなイノベーションを生み出すこともできるはずです。
時代はものすごいスピードで大きく変化していきます。若者のみなさんにはぜひ大きな目標を持って頂きたいと思います。小さな目標では、時代の急流の中で見失ってしまうかもしれません。目標を大きく持って、その達成のために今何をすべきか、1カ月後、1年後に何をすべきか、引き算で人生をデザインしていってください。みなさんの活躍を期待しています。頑張ってください。
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