発明者やその代理人が、特許庁に特許を出願してそれを審査するよう請求すると、特許庁審査官による特許審査が開始されます。この審査に必要なことを世界中の技術文献にあたって調査するのが先行技術文献調査業務であり、株式会社AIRIは特許庁登録調査機関としてその業務を受託している会社です。
「我が国の科学技術及び知的財産権の強化」と「個々の研究者・技術者の潜在能力の活用」の両立こそが、私がAIRIを創業した目的であり、AIRIは知的財産ビジネスで世界をリードすることを目指しています。
64歳で研究者から経営者へ転身
私は博士課程を終了後、国や県の設置する研究所で30年余りを過ごしてきました。前半の約20年間はエネルギー分野で研究者として、燃料電池やリチウム電池などの新しい技術領域を開拓してきました。その後は、3つの研究所で所長(トップ)として管理者の役割を担ってきました。大きな転機となったのは、研究所を辞めることになった58歳の時です。第二の人生をどう生きるか考えていた時、ありがたいことに、大阪ガスで技術顧問の職をいただきました。どうしても実務に関わりたかった私はそれを伝えると、大阪ガスが出資する受託研究機関である株式会社KRIにおいて、常務取締役として東京にあったコンサルティング本部でトップとして指揮を執らせていただきました。
それまで研究者や管理者だった私が、今度は企業で20人ほどのコンサルタントを抱え、経営者として利益を生み出さなければならない。その責務を一身に背負う苦しさを初めて経験しましたが、一方で経営の楽しさも覚えていきました。「対象をよく観察して分析し、自分なりの仮説を立て、それに基づいて予測し次の手を考える」。そんな本質のところで、経営と研究には通じるものがあることに気が付いたのです。また、コンサルティング事業は、知的財産を形にしてビジネス化していくという面白さもありました。
およそ4年間のこの経験が、現在のAIRIへの起業へとつながっています。きっかけは、私が63歳の時、特許庁が先行技術文献調査を外注する受け皿として広く民間企業に調査事業への参入を呼びかけたことでした。大阪ガスでもその呼びかけに応えるべく検討はしたもののやはり乗り切れないということで、それなら私がやってみたいと手を挙げました。そして、64歳で起業したのです。経営のリスクや難しさはもちろん感じていましたが、それ以上にやってみたい気持ちのほうが勝っていました。知的財産は、将来日本人が世界で生き延びていくために必要なもので、むしろこれしかないと確信していましたから。
優秀な人材と共に知財エキスパートとして会社を成長させる
起業してからの3〜5年間は、やはり経験を積むのが大変でした。2006年に13人の社員でスタートして、売り上げは1000万円強でしたが、3年後には社員も50人くらいに増え、そのあたりから自信がつきました。売り上げや社員数をグラフにすると、創業から15年まではきれいな成長曲線に乗っています。これはほぼ計算通りです。17年経った現在、優秀な元研究者・技術者や元特許庁審査官を350人も擁し、特許庁の発注する先行技術文献調査業務(特許庁登録調査機関業務)において、民間企業としてはシェア第1位を誇るまでになりました。売り上げは30億円を超えています。
当社の事業の根幹は特許庁登録調査機関業務であり、95%以上を占めています。幸い当社には「優秀な人材」と「17年間の実績」がありますので、今後は並行して一般企業向け事業を拡大していきます。すでに、国内屈指の大手企業からの依頼で特許調査関係の業務を行っています。3年後には500人体制を目指し、知財エキスパートとしての知見と経験を生かして、知財戦略をお客様と一緒に策定するなどのサービスを一層充実させていくつもりです。その際、「正社員」にはこだわらず、全国津々浦々の優秀な人材を生かし、世界を相手に闘える企業にしたいと思っています。また、「徳のある会社」というのが当社の理念です。お金もうけを優先するのではなく、常に経営陣が「徳」を判断基準の根底に据えておくこと。そして社員一人ひとりも、あらゆる場面で判断を求められたときには、「徳」を基準に行動する。その積み重ねが、日本にとどまらず世界レベルで尊敬される企業としての繁栄・永続につながると信じています。
私の心には、小学校の卒業式で校長先生がおっしゃった「一歩一歩最後まで」という言葉がずっと残っています。「研究」というのはまさにそうで、一つひとつを丁寧に、諦めずに最後までやらないといけない。そういう点では「経営」もまったく同じで、利益につながるまで諦めずにやっていくものです。もう一つ、共通しているのは「型を破る」ということ。型を破り、常識を覆して、世の中にないこと、世の中に欲されているものを生み出していくのが「研究」であり、同じように事業化して利益につなげるのが「経営」です。これから先も、型を破って、一歩一歩最後までやり続けたいと思っています。