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北島広宣
1964年生まれ、神奈川県出身。中央大学商学部卒業後、博報堂LINTASから2006年に博報堂、09年に外資系WPPグループJWTへ転職。13年から社長として海外の最先端のマネジメントスキルを習得する。22年独立し、Owl Plus Partnersを設立。
https://www.owlpartners.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2022年12月 取材時点のものです。

INTERVIEW

日本人の気遣いや相手を敬う心、「和」や「わびさび」の文化は、海外で高く評価されています。最近ではサッカーW杯で日本代表監督が深々とお辞儀をする姿やサポーターが試合後にごみを拾う姿に世界から注目が集まりましたが、あれもまさに日本人のアイデンティティーを感じる一幕でした。「日本の将来は暗い」「もう先進国ではない」などと悲観的なことを言う人もいますが、そんなことはありません。日本という国のブランディングがうまくできていないだけです。若い人たちの力を借りながら、この国が持つ素晴らしさや魅力を世界に発信していきたいと思います。

海外のまねではなく、「和魂洋才」のビジネスモデルを

北島広宣

日本と海外の両方で広告代理店の仕事をした時に、それぞれの企業文化の違いを実感しました。日本の「阿吽(あうん)の呼吸」とか「察する」というコミュニケーションは海外では通用しません。海外は効率重視で数字がすべてです。そして、日本との決定的な違いは意思決定の速さです。日本の組織は縦社会なので、物事を進めるのにその都度、役職者の承認を得なければなりません。「日本の企業にはスピード感がない」と言われる所以(ゆえん)です。ただ、海外のやり方をそのまままねすればいいというのではありません。日本のものづくりへの情熱や調和を重んじる価値観は世界に誇れるもので、大切にすべきです。日本の良さを生かしながら、海外の効率的なマーケティング手法を取り入れる「和魂洋才」のビジネスモデルを確立し、日本企業のブランディングを手掛けてみたいと思い、起業しました。

企業の成長は人々の生活にリンクするのが理想の姿だと私は考えています。企業と人々が強い絆を持ち、何十年先も愛され続けるようなブランディングを目指したい。そのためには多くの人に「この企業が提供してくれるものは自分の心に刺さる」「自分の生活に必要不可欠だ」と思ってもらわなければなりません。海外の企業は人に向けたマーケティングが得意です。ITテクノロジーを駆使して消費者の行動を分析、可視化し、「自社の製品は本当に人々が求めているものなのか」ということを追求します。

一方で日本は少し内向きです。素晴らしいカルチャーを持っているのですが、応用が利きにくく、国内で完結してしまいます。多くの人に愛されるためには、製品その「もの」よりも、何のためにその製品を作ったのか、なぜ細部にまでこだわるのかという「こと」を、デジタルを活用しながら世界に発信していくことが必要です。まだ知られていないだけで、発信すれば世界に広く受け入れられるものがたくさんあるはずです。たとえば、ここ数年で世界的に気運が高まっているSDGs(持続可能な開発目標)の項目の中には、相手の気持ちを尊重する日本人の文化にすでに根付いているものがいくつもあります。それを世界に発信することで、日本のやり方が世界基準になる可能性もあると思います。

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「デジタルネーティブ世代」の力で世界に躍進

日々進化し続けるデジタル社会に適応するには、多彩なアイデアが必要です。今トップに求められるのは、様々な立場や世代の人から満遍なくアイデアを引き出し、柔軟に取り入れるファシリテーターの役割ではないでしょうか。率直に意見を出し合える場を用意してあげれば、若い人たちも良いアイデアを出してくれるはずです。彼らは生まれた時からインターネットやパソコンが身近にある「デジタルネーティブ世代」で、私たちとは異なった感性やアイデアをたくさん持っています。「バーチャルの世界に浸かっている」とか「冷めている」などと勝手にバイアスをかけられて評価されがちですが、表現の仕方が違うだけで、彼らにも日本のカルチャーやスピリットは根付いています。それに加えて、オンライン環境やSNSを自在に使いこなし、情報の収集も発信も得意です。この世代の感性や感度を経営戦略に取り入れることのできる組織が、世界の注目を集める大胆な変革を起こすと確信しています。

これからますますデジタルテクノロジーが進化し、誰も経験がないことが次々に起こる世の中になるでしょう。誰も正解を持っていない、そんな時代だからこそ、若者のみなさんにはデジタル社会の中で培った感性や感度を生かして新しいコミュニケーションを創造してほしいと思います。私も長年コミュニケーションの世界に身を置いてきた経験を生かしてその道先案内人になりたいと思いますし、みなさんにも次世代の案内人になってほしいです。

これからの時代はみなさんが主役です。やりたいことがあるのなら、勇気をもって発言し、行動してください。ただし自己完結するのではなく、周りを巻き込むやり方を大人から学び、デジタルだけではなくリアルで成功体験を分かち合う喜びを感じてください。

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