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木曽健太郎
1967年生まれ、栃木県出身。89年に東京大学経済学部を卒業後、JPモルガン銀行東京支店入行。2004年バークレイズ銀行ロンドン本店に入行し、14年からは債券およびローンシンジケーション部門アジア太平洋統括責任者などを務める。16年から現職。
http://www.barclays.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2017年6月 取材時点のものです。

INTERVIEW

金融分野にもAI(人工知能)などの最先端テクノロジーが導入され、人にしかできないことは限られてきています。昔、私たちが10年かかってやっていたことを今の若い人たちは2、3年で達成するでしょう。50歳を過ぎた私がこの業界で生き残っていくためには、若者の邪魔をせず、謙虚に勉強を続けていかねばならないと常々思っています。謙虚にならないと先に進めません。ここで立ち止まれば、明日には不要になるかもしれません。必要とされるためには、新しいことに取り組み続けることが大切です。人は何歳になっても成長できると私は思います。

安定した地位を捨てロンドンへ

木曽健太郎

小学生の時、父の仕事で米国ミシガン州近郊で3年ほど過ごしたのが、人生で初めての海外経験でした。宇都宮で過ごした中高時代はテニス、大学時代は舞台美術に傾倒し、卒業後はまた海外に出たいと思っていたので、外資系金融機関に絞って就活しました。就職したJPモルガン銀行は、若い社員が自分のしたいことをはっきり言える恵まれた環境でしたね。同時に、責任のある仕事もどんどん任されるので、ミスをして胃が痛くなる経験もたくさんしました。おかげで度胸がつきましたし、自分の弱点や限界も知ることができたと思います。

ある程度経験を積むと、海外の支店からも「日本のことなら木曽に聞けばいい」と信頼を寄せてもらえるようになりました。その頃、ロンドンに行くチャンスが巡ってきたんです。周囲には「今まで積み上げたものがもったいない」「東京にいた方が安泰じゃないのか」と言う人もいましたが、若いうちにチャンスを逃したくなかったので、32歳で渡英しました。ロンドンではジャパンデスクを創設し、その後欧州各国の公的セクターを担当しました。この仕事は一人でできるものではなくチームワークが命なのですが、周りとの信頼関係を築くためには実績を地道に積み重ねるしかありません。「ギブアンドテイク」とは言いますが、ひとつテイクするために5つギブするぐらいのつもりでやっていましたね。

JPモルガンで十数年働いた頃、バークレイズのことを意識するようになりました。業界内でも注目されていて、勢いがありましたね。私も今まで成功したことを新しい場所でやってみようと思い、ロンドン本店に転職を決意しました。ギリシャ、アイルランド、EUと波のように金融危機が押し寄せてきた時期でしたが、その渦中にいて各国の財務当局や金融機関と協力しながら危機に対応できたのはすごい経験だったなと今でも思います。「なぜ日本人がヨーロッパの財政に関わる仕事をしているのか」と尋ねられたことがありますが、外国人ならではの立ち位置があるんですよね。私の場合、アジア通貨危機にもかかわったことがあるので、ヨーロッパで相次ぐ危機も問題の根っこは同じだと感じて、当事者とは異なった立ち位置から冷静に状況を見ることができたのがよかったと思います。

  • 木曽健太郎

居心地のいい日本から飛び出してみよう

日本法人の社長に就任したのは16年のことです。長い海外勤務で培った経験と感覚を評価していただいたので、国内外、社内外問わずコミュニケーションを大切にすることを心掛けています。日本の社員には、極東の辺境にある支店の一スタッフとしてではなく、グローバル企業の一社員として、マネジメントの意思を近くで感じてほしいと思っています。そのためにも、東京に閉じこもっているのではなく、ロンドン本社と常につながって膝を突き合わせて議論するということを繰り返すことが大事なんですよね。

若いうちは案件にかかわって実行までこぎ着けるということをひたすら繰り返すことで成長します。苦労の連続ですが、その先にある達成感をぜひ味わってほしいですね。若いスタッフにそのチャンスを与えて後押ししていくことが私の役割だと思っています。

住み慣れた日本は居心地のいい場所かもしれませんが、若い人たちはどんどん海外へ飛び出してみてください。思うように意思疎通ができない、自分のことも理解してもらえない、そんな場面は何度もあります。理不尽な思いや悔しい経験もたくさんすると思いますが、ぜひ若い時にその壁を乗り越える経験をしてほしいですね。

私が海外生活で気づいたのは、Empathy(共感)の大切さでした。いろんな考えや価値観を持った人がいるので、彼らと議論をするときは相手の立場に立って共感することがとても大事なんです。これができればどこへ行っても仲間は作れますし、リーダーシップを発揮する際にもとても役に立ちます。

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