- 木股昌俊
- 1977年、久保田鉄工株式会社(現 株式会社クボタ)に入社。88年より米国に赴任し、帰国後の2001年、筑波工場長に就任。09年、取締役常務執行役員に就任。機械事業本部副本部長、水・環境ドメイン担当東京本社事務所長、コーポレートスタッフ管掌、水処理事業部長などを歴任し、14年に代表取締役社長、20年に代表取締役会長に就任。現在に至る。
- https://www.kubota.co.jp/
当社は人類の生存に必要不可欠な「食料・水・環境」の分野で事業を展開している会社です。具体的な製品は、人々の食を支える農業機械にはじまり、水インフラを支える水関連機器、都市基盤整備に必要な建設機械、産業を支えるエンジンや精密機器、素形材など、幅広い領域に渡って事業を展開しています。米一粒、水一滴から社会・産業の基盤に至るまで、当社は様々な分野で豊かなくらしを支えてきました。今後も創業以来、脈々と受け継がれてきた「事業を通じて社会の発展に貢献する」というDNAを継承し、私自身もそうした組織を牽引(けんいん)するリーダーとして、夢や希望、誇りを与え続ける存在でありたい。そのための挑戦を続けていきたいと思っています。
私の生まれは岐阜県瑞浪というのどかな田舎町で、国鉄職員であった父と兼業農家を支える母の元で育ちました。幼い頃はとくに熱中したものもなく、将来何をしようかと焦りを感じるほど。夢や目標も描けていませんでした。
しかし、中学高校と私立の学校へ通っていたこともあり、通学は蒸気機関車を利用していました。父が鉄道の仕事をしていたことで、中学1年を迎えた頃には開業した新幹線の試運転に同乗させてもらったこともあります。子供心にロマンを感じたのでしょうか、少しずつそこから機械工学などの分野に興味を抱き始めるようになりました。北海道大学工学部ではエンジンやものづくりの分野にのめり込んでいったのです。そして入社した先が、ものづくりの分野で成長を遂げてきた久保田鉄工株式会社(現 株式会社クボタ)でした。
入社後すぐに設けられた研修期間では、通常の工場実習にとどまらず、海外赴任などを見据えた英語実習にも取り組む日々。当時からクボタという会社には、人を育てることに注力する風土が根付いていたように感じます。
その後、私は筑波工場に配属されましたが、周囲の仲間には本当に恵まれました。皆が勤勉で真面目、根気よく作業に打ち込む者も多く、自然とそうした環境が自分のやる気を引き上げてくれるのです。それが私自身の成長を促してくれたように思います。
当社は早くから海外へ視野を向け、様々な分野で輸出事業を展開し、海外要員を増やしてきました。私自身も時代の潮流とともに海外マインドを植えつけられ、海外市場や海外生産の重要性は理解していました。「いずれチャンスがあれば海外へ行きたい」と思い始めたのもこの頃からです。
そんな矢先の1988年、入社から約10年を経て、工場新設に伴いアメリカでの赴任を言い渡されました。その頃はまだ、日本から輸出されていた小型トラクターなどはアメリカになかった時代です。アメリカ国内でも小型化のニーズが高まっていた時期で、工場での生産は大きな成果を生んでいきました。
アメリカ赴任時代も多くの仲間に恵まれ、日本での仕事環境と同じく、困ったことは皆で助け合う精神が根付いていました。「社会に貢献するものを作っているんだ」という自負と誇りを持った仲間が集まっていたように思います。
私自身、幼い頃は夢や目標もない平凡な青年でしたが、この会社に入社したことを機に、寝食を忘れて仕事に没頭するほどのやりがいを感じるようになりました。そうした実体験は、現在の私の礎にもなっているのだと思います。
その後、95年に日本に帰国し、2001年筑波工場長に就任。それまでの実績を買われる形で、2007年 からは機械営業本部副本部長に就任しました。ものづくりとは180度違う角度から自社の製品を見つめる機会を得ることで、様々な職務を経験してきたことは大きな学びにもつながっています。
今でも大切にしている現場主義やお客様第一主義の精神は、単にものづくりに励むのではなく、そうした営業の現場などで直接的に社会のニーズに向き合ったからこそ得られるもの。とくにお客様第一主義とは、開発から販売、サービスに至るまで、あらゆる局面でお客様の望みを超える必要があります。そうした現場主義やお客様第一主義の重要性は、これからも真摯に受け継いでいくべきでしょう。
当社は2020年に創業130周年を迎え、中長期的な目標として「グローバル・メジャー・ブランド」の実現を目指しています。現在は北米、アジア、欧州、日本と4極で事業運営を行っており、海外売り上げ比率が約7割と、グローバルな事業展開を続けてきました。
そして将来的には、「世界中の人が自分の一番大切な人を預けたいと思うような会社」にしていきたいというのが、経営者としての目標でもあります。
そのためには、共に働くチャレンジ精神旺盛な社員一人ひとりが、「クボタで働けて良かった」と思えるような会社であり続けなければいけません。
当社のモットーの一つは、「壁がある。だから行く」。壁と聞けば、自分たちの目の前にある高い壁を想像される方も多いかもしれません。しかし本当の壁というのは、私たち自身の心の中にあるものです。若い方々の中には、自分で自分の限界をつくってしまっている方もいるでしょう。そんな自分がつくる内なる壁を打ち破って、ぜひ夢に向かって挑戦し続けてほしいと思います。
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