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川鍋一朗
1970年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院MBA取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパンを経て日本交通に入社。2005年、代表取締役社長、15年、代表取締役会長に就任。20年、JapanTaxi社とDeNAの「MOV」事業などを統合し誕生した、Mobility Technologies会長に就任。タクシーアプリ「GO」をリリース。
https://mo-t.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年10月 取材時点のものです。

INTERVIEW

10年前、初めてリリースしたタクシーアプリには誰も見向きもしませんでした。しかし今、タクシーアプリ「GO」は1000万ダウンロードを突破し、国民的アプリへと成長しています。タクシーは路上で手を挙げてつかまえる時代から、アプリで効率よく呼び出せる時代に変わったのです。もはやタクシー産業の土台の半分はIT(情報技術)で成り立っています。これからもデジタルの力を駆使しながら新しいサービスを生み出し、「移動で人を幸せに。」という私たちのミッションを実現していきたい。

社長就任後もドライバーとして街を走り回った

川鍋一朗

私の祖父が今から100年近く前に、ハイヤー1台で日本交通を創業しました。祖父には幼い頃から「お前は3代目だ」と言われて育ったので、他の道を考えたことはありませんでした。大学を卒業後、大手コンサルティングファームに就職したのも、経営を学ぶためでした。ただ、人を説得することが苦手な私にはコンサルタントの仕事はあまり向いていなかったと思います。右往左往するばかりの新人時代でした。

30歳で実家の日本交通に入社したものの、社員たちと歯車がかみ合わず、一人でタクシー事業の子会社を立ち上げました。いつか上場して日本交通を吸収してやろうと意気込んでいましたが、3年で頓挫してしまい、逆に大きな借金を背負ってしまいました。日本交通に戻ると、こちらもまた大きな負債を抱えていました。それからは、負債を減らすことだけに集中しました。体調を崩した父に代わって社長に就任すると、それまで手広く展開していた事業をすべて整理して、ハイヤー・タクシー事業に専念しました。 「タクシーは”ひろう”から”選ぶ”時代へ」とスローガンを掲げ、タクシーチケットや専用乗り場を充実させ、ドライバーのオペレーションを強化し、乗車から下車までお客様がいかにスムーズで快適に利用できるかというサービス面の向上にこだわりました。現場を知るために、私もタクシードライバーとして街を走り回りました。

スマートフォンが普及し始めた2010年頃、自社専用の配車アプリをリリースすると、他のタクシー会社も追随してきました。各社のシステムを一本化したプラットフォームがあれば便利になると考え、立ち上げたのが「JapanTaxi」アプリです。初めはアプリを導入することに消極的なドライバーが多く、なかなか需要と供給のバランスが取れませんでしたが、ユーザーが増えるにつれて状況も少しずつ変わっていきました。

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タクシー業界はゴールデンエイジを迎える

20年にはタクシーアプリで競合関係にあった「JapanTaxi」アプリと、DeNAの「MOV」と統合し、タクシーアプリ「GO」がスタートしました。「GO」になることで、各車両との連携が強化され、高度な配車ロジックでマッチングされることにより、配車がよりスピーディーになり、大きな強みとなりました。日本最大手タクシー会社とITメガベンチャーが一緒になったことで、タクシー業界にDX(デジタルトランスフォーメーション)が浸透する追い風になったと実感しています。

ただ、初めから何もかも順調だったわけではありません。初めの頃のわが社のeNPS調査(従業員の自社への愛着、満足度、働きがいを測定)の数値は最悪だったのです。社員のコメントすべてに目を通し、改善できる部分はすぐに手を打ち、真摯に向き合いました。調査結果は回を重ねるごとに良くなっていますが、社員の声に耳を傾け、表面化していない不安や不満、組織に足りないところをあぶり出す作業はこれからも続けます。タクシー業界はこれからゴールデンエイジを迎えようとしています。少子高齢化が進み、バスや電車の路線が縮小していくと、タクシーが公共交通のメインとなるはずです。さらに人だけではなく、ものや情報も乗せることになるでしょう。災害時には発電システムや防災設備を乗せて、その車両さえ走っていれば地域が回る、そんなモビリティーインフラとなる光景が目に浮かびます。実現するまでまだ時間が掛かるかもしれませんが、そこへ向けてすでに動き出しています。

あらゆる情報が簡単に手に入る時代ですが、情報に目を通しただけで、分かったような気になってはいないでしょうか。自分では何もせずに「言うだけ」の人ばかりが増えると、行動を起こす人がいなくなってしまいます。言うだけの方が楽ですし賢く見えがちですが、動く人がいなければ世の中の進化はありません。若者のみなさんには、失敗や批判を恐れずに行動を起こす側になってほしいと思います。年を重ねるにつれて難しくなりますから、若いうちにどんどん動くべきです。最初は手探りでも、動くうちに成果の出し方も分かってくるはずです。

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