profile
河上泰之
1987年東京都出身。デザイン思考の専門家で、経産省・特許庁、I-OPEN SUPPORTER、長野県官民連携共創推進パートナー、三重県伊賀市DXアドバイザー(非常勤特別職)、愛知県南知多町で町長相談役兼行財政マネジメント総合政策アドバイザーの現職として活躍する。慶應義塾大学大学院SDM研究科を優秀賞で修了。日本IBM、デロイトトーマツコンサルティングにてデザイン思考の専門家として活躍。また東京商工会議所でDX・デザイン思考の講師を務める。
http://www.beth.co.jp/
※本サイトに掲載している情報は2023年3月 取材時点のものです。

INTERVIEW

世の中を変える人を育てるために「物事の考え方」を伝えることが私の仕事です。「日本はもうダメなんじゃないか」――そんなムードを一蹴し、もう一度「Japan as No.1」と世界に言わしめたくて本気で挑戦しています。会社を大きくしないのかとよく聞かれますが、内輪で仲間を増やしても世の中は変わりません。自社で従業員を雇うと、その分の給料を確保しなくてはならず、きっと「その給料を稼ぐために売り上げがいくら必要か」ということを考えてしまうと思います。そんなことはしたくありません。自分の会社が大きくなることよりも、クライアントがそれぞれの組織で結果を出してくれることが日本の社会を変える近道です。

「人がどう感じるか」にフォーカスした「デザイン思考」

河上泰之

先日、健康診断で医師から「ビールと唐揚げはやめなさい」と叱られました。さらに「脂質を取り過ぎているから、こういうリスクがある。こんな順序でここういう内容の食事を心掛けてみてください」と医師のアドバイスは続きました。理路整然としたアドバイスに「その通りだな」と納得するばかりでしたが、それが私にとって心地良いかどうかはまた別の話です。論理的に正しいことと人にとって良いことは違います。

物事の状況を分解して仕組みを作る「ロジカルシンキング」に対して、人にとって意味のある問題の解き方を「デザイン思考」といいます。どちらの考え方も必要ですが、前者と比べると浸透していない後者の考え方ができる人や組織を増やしたいと考えています。私は大学時代に遺伝子工学を専攻していましたが、様々な人間関係を通して人が何を考え、何に喜びや悲しみを感じるかということに興味を持ちました。大学院では遺伝子工学ではなく、社会システムの勉強をしました。その時に「デザイン思考」と出会い、人を相手にビジネスをする上で絶対に必要な考え方だと確信したのです。

社会に出て分かったことですが、多くの企業が新規事業やDXに取り組む時「考える」作業を外注先に頼っています。大手は特にその傾向が顕著で顧客調査も調査会社に丸投げ、DXもベンダーに丸投げする文化が染みついているのです。それが常態化すると、そもそも自分たちが何を生み出したいのかすら分からないまま、相手に全部任せてしまう。これでは良いものができるわけがありません。業務マニュアルにはない「考える」という仕事をまず自分たちでやる意識が必要です。

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教えるのは答えではなく、考え方

コンサルティング会社で働いていた時のことです。クライアントに新規事業の提案をすると、とても喜んでくれました。ところが先方の部長が「じゃあ誰にやってもらおうかな」と部下を見渡すと、全員が下を向いてしまったのです。どれだけクオリティーの高い企画を用意しても、クライアントが「できる」と確信できるもの、心からやりたいと思うものでなければ意味がないのだと痛感しました。この出来事は独立のきっかけになりました。今、私がやっているのは解決策を提案することではなく、コンサルタントに頼らなくても自分たちで答えを出せるように物事の考え方や決め方を教えることです。組織に何が必要なのかを一緒にひも解き、必要な方法論や知識を伝えます。デザイン思考もロジカルシンキングもその手段です。

クライアントには自分たちで集めた情報を元に自分たちで考えてもらいます。そのクオリティーがどうであろうと、こちらはサポートに徹します。誰かに決めてもらっているうちは本気で取り組むことはできません。選択肢は示しますが、決めるのはクライアントで私の中に答えはないのだということを肝に銘じています。進めていくうちにクライアントの熱量の変化が手に取るように伝わります。最初は不安そうにしているのですが、「これだ」と腹に落ちた瞬間メンバーたちのメモの取り方や表情が変わるのが分かります。そういう瞬間をいかに作れるかを大事にしています。あとはクライアントの社員たちが頭と手を動かし、恥も汗もかくことです。失敗もただの結果に過ぎません。課題に正しく挑み、たとえうまくいかなくてもまた自分たちの力で正しく次に進む力をつけることが大切です。そんな組織が増えればこの国はもっと輝けると確信しています。

また民間企業とあわせて行政への支援も行っています。民間企業の活動も行政のインフラがなければ成り立ちません。行政を支援しながら民間企業にも成功してもらい、その税収をうまく行政に使ってもらう好循環を生み出せればいいです。
今は講演活動やオンライン動画学習サービスでより多くの人に「考え方を変える」ことを伝えているところです。本気で「変わりたい」と願うすべての人に変わってほしいと思います。

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