- 岩崎真弥
- 1972年生まれ、兵庫県出身。96年に追手門学院大学経済学部卒業後、大昭和製紙(現日本製紙)を経て、2001年、大一洋紙に入社。東京営業所勤務を経て、09年から大阪本社。16年、代表取締役社長に就任。
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初めての就職先が製紙工場でした。私たちの日常生活には紙袋やコピー用紙、ティッシュペーパーなど様々な形の紙がありますが、その原型はどれも化け物のように巨大なロールです。工場ではそれを何トンも作り上げて、サイズダウンしていきます。最初に見た時は圧倒されましたし、紙を作るということは壮大な事業なのだと感じました。現場で工程を見たからこそ、紙の魅力をもっと多くの人に知ってほしいと思いましたし、簡単に“ペーパーレス”などと言わないでほしいのです。DX化が進み、SDGsが叫ばれ、紙は環境に悪いように言われがちですが、どの業界よりも先に古紙などリサイクルに取り組んできました。紙の良さや環境への配慮をもっと発信していきたいと思います。
大阪市内で紙の卸業を営む家に生まれました。曾祖父が1915年に立ち上げた会社で、今年で創業110年目を迎えます。大阪市と東大阪市に倉庫を構え、製紙会社で作られた様々な種類の紙をお客様の要望に応じて納入しています。後継ぎになれと言われたことはなかったので、学生時代はマスコミ関係の仕事に憧れて就職活動をしていました。ところがある日、父が急に「家業を継いでくれ」と言い出したのです。父は昔から厳しく、口答えできるような相手ではありませんでした。それに父や祖父、曾祖父が守ってきた家業を絶やすわけにもいきません。マスコミ関係で1件、内定をもらえそうなところまで進んでいたのですが、泣く泣く辞退しました。
最初に入社したのは実家ではなく、主力仕入先である静岡県の製紙会社でした。父に「まずは紙を作る現場で勉強しなさい。この先、紙の販売をする時に、クレームがあってもすぐに対応できるから。」と言われて、決意したのです。数年で家業に入ってからも、父から直接仕事を教わることはほとんどありませんでした。周りを見て覚えろという昔堅気な父でした。おかげで、お客様との関係はほとんど自分で作り上げてきたと思います。顔を合わせて直接話をすることの大切さを実感しました。
父に代わって代表に就任したのは9年前のことです。私に仕事を教えてくれた年上の社員たちが部下になることに戸惑いもありましたが、相手が年上であろうと年下であろうと、謙虚な気持ちを忘れずに誰とでも積極的にコミュニケーションをとることを心がけてきました。旅行などのイベントも企画し、社員たちが楽しく働けるように工夫しました。父が言っていた「Foot Work」「Head Work」「Heart Work」は今も大切にしています。これはお客様のもとにすぐに足を運ぶ、お客様の望むことを頭で考える、お客様に心を込めて提案する、という意味です。
紙を使うことが森林破壊につながるという声もありますが、多くの製紙メーカーは植林を実施し、自社で育てた木で紙を作っています。また、過密状態の木を間引くことで太陽光が森林全体に届くようになり、森林の保全にもつながります。“木を使うこと=悪”ではないのです。こうしたことを、紙の業界全体で広く発信していくことが大切だと考えています。
SDGsの流れで紙ストローを導入する企業も増えました。それを受けてプラスチックストローのメーカーは、水溶性や生分解性のプラスチックをすぐに開発しました。何もかも環境問題につなげて批判するのではなく、ユーザーが用途によって自由に選べる流れになればいいと思います。110年続いてきた紙の販売を事業の柱とすることは、これからも変わりません。印刷物やチラシなど紙媒体の需要が大きく伸びることはないかもしれませんが、代わりにティッシュペーパーや箱などの生活必需品にフォーカスして営業力を強化しようと考えています。2021年には大阪府内で段ボールの製造や組み立て、梱包を手がけるイクタをグループ会社に加えたことで、当社でできる提案の幅も広がりました。お客様にも「人手不足で悩んでいたので、梱包や箱詰めまでしてもらえて助かる」と喜んでいただくことが増えました。今後も様々な可能性を探りながら、いろんなことに挑戦していきたいです。
紙は文化や情報、歴史を後世に伝える事ができる唯一の媒体であると言われてきました。学校現場でもタブレット教育が進んでいますが、紙のテキストの良さも見直されています。ペーパーレスの流れは止められませんが、デジタルを敵対視するのではなく、紙とデジタルのコラボレーションができればと思います。ペーパーレスの時代だからこそ、いかにして紙の魅力を発信し、売り上げを伸ばすか。社員が明るく楽しく元気に働けるために何ができるか。どうすれば社員の家族やステークホルダーに喜んでもらえるか。経営者として、これからも日々挑戦を続けます。
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