- 星野佳路
- 1960年生まれ。長野県出身。慶応義塾大学経済学部を卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。91年、星野リゾート代表取締役社長に就任。自社のリゾート施設を運営するほか、経営が破綻した大型リゾート施設などの再生にも着手。03年、国土交通省から第一回観光カリスマに選定される。
- https://www.hoshinoresorts.com/
私は年間60日ぐらいは冬山でスキーをして過ごしています。スキーは素晴らしいライフスポーツなので、いろんな人に挑戦してみてほしいですね。 冬山ではよく若い人と話をするのですが、「若者よ、大志を抱け」ということを伝えています。若い人には将来の夢を持っていてほしいのです。夢がある人とない人では、最終到達地点の高さが違います。「自分の大志とは何だろう」ということを改めて考えてみてください。
軽井沢にある温泉旅館の四代目として生まれました。旅館は自分の家のような感覚でしたね。周囲には山も川もあって、広大な国有林までも自分の庭のようでした。勉強を強要されることもなく、子供の頃はひたすら外を駆け回って遊びました。今の東京での暮らしとはかけ離れた生活でしたね。
中学生の頃からアイスホッケーに熱中しました。大学では1年目でレギュラーを張り、3年生の時に主将に立候補しました。本来、主将は監督や4年生から指名されるのですが、私なりに部全体の問題点と成果を上げるための道筋が明確に見えていたので、ぜひ自分に任せてほしいと訴えたのです。主将になった後は2部リーグ優勝、1部復帰も果たしました。
大学卒業後、実家を継ぐことを見据えてアメリカの大学院に留学し、ホテル経営を学びました。実家を継ぐことは子供の頃から意識していたし迷いはありませんでしたが、正直あまりかっこいい仕事だとは思えなかったんですよね。海外のホテルやリゾートに憧れがある分、「日本の温泉旅館はダサくて格好悪い」という意識があったのです。
ある日レセプションでフォーマルウェアを着る機会があり、私はスーツ姿で出席したのですが、クラスメートは出身国の衣装に身を包んでいました。「世界的にもよく知られた文化を持つ日本の出身なのに、なぜ日本らしいフォーマルウェアを着ないんだ」と指摘され、世界が日本に求めていることを意識し始めました。そして、日本の温泉旅館こそ、日本文化を世界に発信できる力を持っていることに気付いたのです。
帰国後、実家の温泉旅館で働き始めたのですが、同族経営特有のしがらみの強さから、社員が次々に辞めてしまうような状況でした。経営を任された私の最初の課題は、良い人材が集まって長く働いてくれる会社にすること。そのためにも、しがらみを払拭し、社員同士が年齢や立場に関係なく自由に意見を言えるフラットな組織をつくろうと思いました。
実はこの発想は、アイスホッケー部時代の経験が原点になっています。試合中は戦略や作戦通りにいかないことが多く、選手は自分の判断で動かなければいけません。この仕事も似ていて、お客様と接するスタッフが毎日いろんなケースに遭遇する中で、自分で判断しなければいけない場面がたくさんあります。トップに言われるままに動くのではなく、自分の判断で行動してもらうことで社員にはモチベーションを上げてほしいのです。また、そうして現場から生まれたいろんな発見やアイディアについて自由に議論できる環境をつくりたいと思ったんです。最終的な判断はトップがするけれど、その判断材料を十分に集めるためにもフラットな議論は不可欠ですからね。
私たちは「リゾート運営の達人になる」というビジョンを持っています。そのためには一つひとつの内容に妥協しないことが大事で、このビジョンに共感してくれる同志が集まってきてくれるような企業であり続けなければいけないと思っています。 今伸びている分野がこれからも伸びるとは限りません。 私の場合は地方の温泉旅館に着目しました。日本の地方には格差があります。今ダメだといわれているところも実はチャンスがあるかもしれないし、地方だからこそ活躍できる場面があるかもしれません。 これからは会社に頼る時代じゃないと思います。今から3年後、5年後、自分がどれぐらい成長できるかということを見据えながら判断していくことが大事です。
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