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本郷尚
1947年生まれ、神奈川県出身。73年、税理士登録。75年、本郷会計事務所開業。87年、タクトコンサルティング設立。2002年、税理士法人タクトコンサルティング設立。資産税に特化したコンサルティングを手掛ける。著書に「相続の6つの物語」(日本経済新聞出版社)、「資産税コンサル、一生道半ば」(清文社)、「女は4つの顔で相続する~娘、嫁、妻、母~」(白揚社)他、多数。
https://www.tactnet.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年4月 取材時点のものです。

INTERVIEW

毎月お客様に「お元気ですか」と絵手紙を送っています。もう30年ぐらい続けています。年齢を重ねて老人ホームに入居したお客様にも送り続けると、とても喜んでいただきました。資産税でかかわったお客様は、亡くなった後もそのご家族を通してお付き合いが続きます。私たちはお客様の大切な資産やご家族のことをご相談いただくのが仕事ですから、信頼に足る人間でなければいけません。いくら節税できたというような話は目先のことでしかありません。お客様の人生に寄り添い一生お付き合いするという真摯な姿勢が大切だと考えています。

資産税に特化した事務所がないなら、自分がやる

本郷尚

子どもの頃から父に「独り立ちできるように、しっかり勉強して手に職を持ちなさい」と言われてきました。ある時、父に連れられて知り合いの税理士事務所を訪ねたのですが、外にいい車が停まっているのを見て「自分もこんな車に乗れる大人になりたい」と思いました。単純ですが、それがこの道を志したきっかけです。大学入学と同時に必死で税理士試験の勉強を始めて、在学中に合格しました。

大学卒業後に就職した会計事務所は、不動産鑑定業務も請け負っていました。不動産の知識はまったくなかったので、見よう見まねで仕事を覚えました。そのうち、依頼主が身内で揉めているような難しい案件もどんどん任せていただくようになったおかげで、相続や譲渡を扱う資産税の分野にかなり詳しくなりました。不動産業界や弁護士、司法書士との人脈ができたのもこの頃です。独立して間もない頃、勉強のために税理士仲間たちと一緒に全国の会計事務所を数十カ所巡りました。成功を収めている大きな事務所ばかりでしたが、資産税を得意とした事務所は一つもありませんでした。法人税や所得税の申告業務と比べると案件が少ないからでしょう。しかし、私は直感で「これだ」と思いました。人と同じことをやるのは好きではありませんし、誰もやらないからこそチャンスがあると考えました。

当時、私が抱えていた仕事の半分以上は申告業務でしたが、その大半を横浜の税理士事務所に明け渡し、資産税一本でやっていこうと心機一転、東京に事務所を構えました。37年前です。誰もやっていませんでした。もちろんリスクがあるのは分かっていましたが、安定収入にあぐらをかいていては成長しないと思いました。

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「法の網の目をくぐるような仕事はするな」

所属していた会計業界団体の会長にあいさつに出向き、資産税一本でやっていくことを伝えました。会長から、「資産税の世界は欲にまみれている。やるからには利他に徹しなさい。金銭欲、物欲、名誉欲は捨てなさい。創造欲に生きなさい。それがあなたの持ち味なのだから大切にしなさい」と助言されました。そして、「法形式の乱用を禁止する」、「法の網の目をくぐるような仕事はしてはいけない」と念を押されました。違法じゃなければいいという考え方はするなということです。「ずいぶん厳しいことを言う」と思ったものです。しかし、資産税の世界で経験を積むほどに、この言葉は重みを増していきました。苦しい時ほどこの言葉を思い出して、原点に立ち返るようにしています。「そんなきれいごとでやっていけるか」と思う人もいるでしょう。しかし億単位のお金が動く中でつい欲が出て、訴えられたり脱税で捕まったりする人が続出するような世界です。会長の言葉は、ここに長く身を置く私を守ってくれました。信念がなければ、一時的にお金を稼ぐことはできても、長続きはしません。

今、当社で働いてくれている40人近い税理士は、会計事務所や監査法人の出身者だけではなく、銀行や保険会社、行政など様々なバックグラウンドを持っています。ここで税理士として経験を積み、10年ぐらいでみんな巣立っていきます。私自身「手に職を持って独り立ちしなさい」と言われて育ったので、自然なことです。今まで100人以上独立しました。自分で事務所を開業した人が大半ですが、ジャーナリストや一般企業の社長になった人もいます。私も65歳で代表をしりぞきました。いつまでも居座っていたら次の世代が育ちません。今は、経営に口出しは一切しません。私の背中を見て何かを感じてもらえたなら、うれしいですね。

人間は弱いものです。いつでも欲にさいなまれています。「こうあるべきだ」ときれいごとを言ったって、本当はさぼりたいし、楽をしていい思いをしたいし、お金や権力を手放したくないのです。人の本能はそういうものです。私も本能に負けそうになる時がありますが、嘘はつかないこと、自分を律すること、人のために動くことを肝に銘じています。自分の中に信念を持っていれば、負けそうな時、流されそうな時にブレーキをかけることができるのではないでしょうか。現場の仕事は好きです。人間ドラマを見て学ぶことが、次から次へと続きますから……。

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