
”実るほど頭を垂れる稲穂かな”―サラリーマン時代にお世話になった上司に常々言われていた言葉です。初めはあまりピンと来なかったのですが、上司は私がミスをした際、先方に頭を下げてくれました。その姿は胸に迫るものがありました。人に頭を下げる時、情けなく感じる人もいるかもしれません。しかし自分や仲間の非を認め、逃げずに頭を下げられる人は立派です。上司の言葉の通り、大きなものを背負っている人ほど、潔く頭を下げられるものだと改めて感じています。
お客様に喜ばれる実感がほしい

バブル崩壊後の景気がどん底の時期に就職活動をした、いわゆる「ロスジェネ世代」です。新卒で旅行代理店にすべり込み、内勤の仕事をしていましたが、この先のキャリアを考えた時に営業経験がなければ生き残れないのではないかと思い、建売住宅用の土地を売買する営業職に転職しました。とにかく不景気でしたから、不動産業界のお給料の良さに魅力を感じたのも正直なところです。覚えなければいけないことが多く人付き合いも大変でしたが、仕事は面白く営業成績は常にトップでした。7年間働き「これなら自分でできるかもしれない」と思い、半ば勢いで独立しました。
当初はいわゆる「土地転がし」がメインでした。景気も上向きになってきて、稼ぎも良かった。自分で安く買ってきた土地に家やマンションを建てて売るのですが、私が売る相手は仲介業者なので、実際にそこに住むお客様の顔を見ることはないんです。それまであまり気にしたことがありませんでしたが、お客様がどんな人で、どんな思いで物件を買うのか、私は何も知らなかった。もっとお客様の顔を見て話を聞きたい、お客様に喜んでいただく実感がほしい、そう考えて今の事業にシフトしていきました。
今は仲介業のほか、中古マンションのリノベーション事業、不動産と相続のコンサルティングを手がけています。住まいを探すお客様に対して、家族構成やライフスタイルなどを聞き、新居に対してどんな希望や思いを持っているかじっくり話をうかがいながらお手伝いしています。それまで頭の中は誰よりも売り上げを上げることばかりでお客様のことまで思い及んでいなかったことを痛感しました。お客様に「平出さんに頼んでよかった」と言っていただける時は本当にうれしいものです。
リノベーション事業で地域を盛り上げる
社員たちに営業テクニックを指南することはありません。もちろん助言を求められれば協力しますが、営業スタイルは人それぞれですから。その代わり、礼儀やマナーを疎かにしたら厳しく叱ります。たとえば、あいさつをする時に無言で会釈だけの人もいますが、そういった立ち振る舞いひとつで、お客様に見向きもされないということになってはもったいないと思います。私自身、礼儀やマナーを大切にすることでお客様にかわいがっていただき、新しいお客様を紹介していただいた経験があります。基本的なことですが、年齢や業界に関係なく、とても大事なことです。一度ご縁のあったお客様とは一生のお付き合いができるよう努力しなさいと社員たちにいつも話しています。入居後10年、20年と経てば、お客様のライフスタイルが変わって再度リノベーションしたり、お子さんの世代が家を買ったりするかもしれません。相続の悩みが出てくるかもしれません。そんな時に一番に頼ってもらえるような信頼関係を築いてほしいです。
都心の中古マンションは増える一方です。今後はリノベーション事業に注力し、中古マンションをより便利で住みやすく再生して、都心に住みたいお客様のニーズに応えていきます。物件を購入したお客様がその土地の生活を楽しむことが、地域の活性化にもつながります。開業以来、事務所のある世田谷区を商圏としてきましたが、今後は少しずつエリアを広げ、各エリアのお客様と一生のお付き合いができるような店舗展開をしていきたいと思います。どの店舗も地域の人が気軽に立ち寄れる雰囲気を目指したいです。若い社員たちと一杯やりながら「新店舗の店長は任せたぞ」と話しているところです。
私も常に褒められるような生き方をしてきたわけではありません。ふらふらしていた時期もありました。私が自分の会社を持つことができたのは、営業の仕事を好きになって売り上げトップの座を誰にも譲りたくない一心で取り組んだからだと思います。若者の皆さんの中にも、自分が何をしたいのか分からず漫然と過ごしている方がいるかもしれませんが、本当に好きなこと、やりたいことが見つかるまではそれでもいいと思います。これというものが見つかったら、一生懸命打ち込んで極めてください。きっとその道で生きていくことができるはずです。