- 牛膓栄一
- 1960年神奈川県出身。83年、明治大学卒業後ロッテ入社。2008年、ロッテ商事営業統轄部執行役員、15年常務取締役、同年ロッテホールディングス取締役(兼任)、16年ロッテ商事代表取締役専務(兼任)。18年4月、ロッテ、ロッテ商事、ロッテアイスの3社が合併し、新会社ロッテの代表取締役社長執行役員に就任。
- https://www.lotte.co.jp/
この会社には商品化に関する社長決裁というものがありません。いちいち「お伺い」を立てていると時間がかかるためです。社員たちには「こういう新商品を出したい」「どのデザインがいいか」などに関しては私に許可を求めなくていいので、自分たちで自由に決めて進めてほしいと話しています。そのおかげで最近のロッテはセンスがいいとほめてもらうことが増えました。これからも若い人たちの感性を生かしながら今顧客が欲しているものをいち早く生み出し続けます。
幼いころはひ弱でおとなしく、両親は気を揉むことが多かったようです。しかし小学生の時に地元の少年野球チームに加入してから変わりました。大ぜいの中で自分の役割を模索したり競争意識が芽生えたりと、大きく成長したと思います。中学と高校ではバスケットボール部で汗を流しました。二度と経験したくないと思うほど過酷な日々でしたが、当時の仲間とは今も付き合いがあります。厳しい練習を通して身についた「もうひと踏ん張り」の精神が今の仕事にも生きていると思います。
ロッテに入社したのは、大学の先輩に誘われたからでした。当時は野心もなく、安定した企業に入って幸せな家庭を築ければいいと思っていました。オイルショックの影響で就職難だったので、コネとはいえ入社が決まった時は天にも昇る気持ちでした。これといった取り柄もない私を採用してくれたロッテには今でも感謝しています。初めに配属された大阪支店では営業マンとして食料品店や商店を回りました。営業所の先輩も顧客も優しく温かい人ばかりで、至らない部分があっても一生懸命やっていれば何かと世話を焼いてくれました。取引先のスーパーも多めに注文してくれたりしてありがたかったです。私も早く恩返しがしたくて必死でした。損得勘定よりも人情。そこで学んだことは今も大切にしています。
36歳で本社勤務になりましたが、本社はルールが厳しく同調圧力も感じました。しかし負けず嫌いの私は自分の考えを曲げませんでした。大阪でそれなりの結果を残して天狗(てんぐ)になっていたと思います。きっと周りには嫌われていたでしょう。単身で東京に赴任した寂しさも身に堪えましたが、結果を残して認めてもらうしかないので、ここが踏ん張りどころだと自分を奮い立たせていました。その後、異動先の水戸支店で5人の営業社員と20人の女性社員たちの一生懸命働く姿を見て、自分の傲慢さ、未熟さを恥じました。仕事は一人ではできないことを痛感し、周囲への感謝の念が芽生えました。
再び本社に戻り、56歳で社長に就任しました。「私にやらせてほしい」と現会長に直訴したのです。ちょうど会社が「お家騒動」で揉めていた時期で、何とかしたい一心でした。新卒からの生え抜き社員であることに誇りを持っていましたし、会社への愛もあったので、自分が何とかしなければという使命感がありました。ロッテは元来、強いカリスマオーナーの企業です。社員たちは指示されたことを実直にこなしますが、主体性に欠けていました。本当はユニークなアイデアを持つ若い社員が大勢いることを知っていたので、それぞれが力を発揮できるよう、年齢や立場に関係なく何でも挑戦できる風土をつくり、自由闊達に話し合える会社に変えていこうと決意しました。私はカリスマオーナーではないので、日ごろは目立たなくていいのです。しかし何かあった時は矢面に立って会社や社員を守る。そんな社長でありたいと思っています。社員たちが「社長がいるから大丈夫」と安心していろんなことに挑戦してもらいたいです。
今は若手チームが中心となって従来のアイスクリームや菓子にとどまらず、飲料やチルド商品、酒など幅広いジャンルに手を広げようとしています。オーナーが築いたブランドを大切に守りながらも、失敗を恐れずチャレンジしていきます。社会人なのでもちろん苦しいこともたくさんありますが、すべての社員に「ロッテに入って良かった」と思ってもらいたい。それが社長である私の夢であり責任です。社員の評価制度も変え、社員一人ひとりが長所や個性を生かすための教育にも注力しています。一人ひとりが強くなれば組織も強くなるはずです。まだこれからですが、変化を日々実感できるのは楽しいものです。
誰の人生にも平等に「山あり谷あり」です。谷の方が多いかもしれませんが、谷の時こそ、どう考えるかが大事です。何をしても調子が上がらない時は自分の未熟さや弱点と向き合う時間に充てて次に備えれば、必ず山が見えてきます。そして山の時も決して驕(おご)らず、周囲のおかげだと謙虚な気持ちでいることです。そしてさらなる高みを目指すのです。その繰り返しで人は成長します。失敗を恐れず挑戦しましょう。
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