- 藤田勝久
- 福島県出身。1974年、神奈川大学工学部応用化学科卒業後、日本アップジョン(現ファイザー)入社。MRから東京支店次長の経歴を積み、96年、兄の経営する調剤薬局法人に転職。その後横浜にウイン調剤薬局開局を皮切りに全国55店舗の調剤薬局を運営。2001年、ウインファーマを設立、代表取締役就任。ウインファーマグループ法人代表。14年日本保険薬局協会理事、日本保険薬局政治連盟幹事。
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田畑に囲まれた自然豊かな集落で育ち、幼い頃から植物の観察に夢中になっていました。野山を歩き回り、肩から下げたブリキ缶に採取した草花を入れ、持ち帰っては図鑑と照らし合わせて何の植物か必死に調べたものです。今はスマートフォンで撮った写真からすぐに植物の種類を判別できる便利なアプリがあることに驚きました。医薬品業界もIT(情報技術)化が進んでいます。世の中には1万数千種類の薬がありますが、そのうち薬の情報もアプリで瞬時に調べられるようになるかもしれません。
福島県郡山市にある酒屋の次男として生まれました。中学生になると自転車に酒瓶を積んで近隣への配達を手伝っていました。化学が好きで大学では応用化学を専攻し、医薬品の研究職を目指していましたが、なかなか求人がなく、外資系製薬会社のMR(医療機関に自社の医薬品情報を提供する営業職)として就職しました。希望の職種ではなかったものの、自分が売り込んだ薬が患者さんの治療に効いたと医師から知らされた時は非常にやりがいを感じましたし、医薬品の重大さを実感しました。特に抗生物質の新薬は従来品より安全で効果があると多くのドクターから評価され、国内医薬品の中でもトップセールスになっていました。しかしメーカー間の競争が年々激化する中、私のいた会社は次第に製品開発力を失い、米国本社はついに株式を売却。入社から21年目に、早期退職募集に手を挙げて退職しました。
ちょうど同時期、地元福島を拠点に調剤薬局を立ち上げチェーン展開していた兄を手伝うことになり、管理部長として店舗展開を推進しました。ある時、MR時代にお付き合いのあったドクターから横浜鶴見で開業され、医薬分業をお勧めし、そのクリニックの門前に兄の薬局ののれん分けのような形で第1店舗を開局しました。鶴見は、私が学生時代に上京し、最初に住んだなじみのある街でもあります。鶴見を皮切りに、関東一円に調剤薬局を展開していきました。
医師と薬剤師がそれぞれ専門的な役割を担う「医薬分業」の流れが加速する中、処方箋はドクターからの医薬品への期待を込めたメッセージとして受け取り、医薬品のエキスパートとしてそれに全力で応えたいという思いで仕事に取り組んでいました。
新型コロナウイルス禍でオンライン診療や調剤の機械化が進む今、全国に6万軒ある薬局は生き残りの岐路に立っています。薬局が単なる「お薬の受け渡し窓口」にすぎないなら、今後淘汰されていくでしょう。薬剤師が役割を確立するためには、地域のかかりつけ医と同じように担当の患者様を持ち、一人ひとりに寄り添いながら服薬を含めた健康管理をする「かかりつけ薬剤師」の役割を確立すべきだと考えています。病院にかかる前に、些細(ささい)な心配ごとを気軽に相談できるような立ち位置を目指して、地域の健康をサポートしていきたいです。
10年ほど前に研修で欧米を訪ねた際、ドラッグストアでは認定薬剤師がワクチンの接種をしていました。医療行為に準ずる部分を、薬剤師が自分たちの手で獲得してきたのです。日本も同じことをやるべきかどうかはともかく、こういった医師のサポート役を積極的に買って出るぐらいでなければ、生き残ることは難しいかもしれません。日本の処方用医薬品は、国が定める「薬価制度」によって価格が決まります。一度薬価が付けば大部分は健康保険で支払われるため、製薬会社は安定的な収益が見込めます。一方、米国の医薬品は国の薬価制度で保護される仕組みがなく、特許が切れると大幅に値下がりしてしまうため、どの製薬メーカーも新薬開発至上主義なのです。このような違いがあるために、日本は新薬開発については海外に水をあけられているのが現状です。新型コロナウイルスワクチン供給の時に実感した人も多いのではないでしょうか。将来、新型コロナウイルスのような感染症がまた猛威を振るうかもしれません。日本の創薬の力、研究開発力を向上するためにも、国を挙げてより多くのリソースを投入し、医療を一大産業に育て上げていかなくてはなりません。
医療の道を志す若者のみなさんには、日本の医療制度の恩恵を堅持しつつ、創薬の国際競争力をつけていくという両輪の舵を取りながら業界をリードしてほしいと思います。「日本の医療ここにあり」と胸を張れるような活躍を期待しています。「健康こそ国の成長の基盤」です。その基盤を自分たちが支えていくという気概を持って、頑張ってください。